大井レイ
1から8限まで学校へ行き、その後はファミレスのバイトと、心配があればたまに単発のバイトをして日々を過ごす。
大井レイは大学2年で親元を離れて家賃代のみの最低限の仕送りで一人暮らしをしている。
変化は苦手だから、代わり映えの無い日々が有難い。できるだけ人に関わらず、大きな変化などできれば何も起きないでいて欲しい。
「え、どういうことですか」
珍しくランチシフトでバイト先に到着すると、社員さんが慌ただしく走り回っていた。
「だから、社長が夜逃げしてこの店舗も捨てられたからみんなクビになったの」
今日をもって、バイト先が無くなったらしい。突然の倒産の知らせに俺を含め数人のバイトたちは唖然としていた。
幸か不幸か、明日から夏休みが開ける。
ーーーーーーー
「あそこらへんに死体があればいいのにな」
22時過ぎの夜の河川敷の坂の所に並んで座っていた。猛暑は過ぎて、心地よい風が吹き抜けている。夜の匂いと川のドブ臭さが混ざった匂いがしていた。
先輩は続ける。
「予期しないことってめっちゃワクワクするじゃん?死体なんて見たらより楽しくなりそう」
「そういう意味で言うとー」
つい先刻、俺があんまり暑いので河原に足を突っ込んで川を横断しようとしていたところを先輩に声をかけられた。さっきの俺は先輩の“ワクワク”にドンピシャだったらしい。
「マジな話、こんな汚い川そのまま入ったらキンタマ馬鹿みたいに腫れんぞ」
経験者か。
これで俺のキンタマが馬鹿みたちに腫れたらどうしようもないので川に入るのは辞めておく。
“先輩”は俺のバイト先の先輩だ。苗字で呼ぶのが普通だと思うが、いつも入れ替わりだから挨拶以外の言葉を交わしたことはないし、シフト表で確認するまでもないので、名前を知らない。だから“先輩”と呼んでいる。
まあそんなバイト先も今しがた無くなったのだが。
「先輩は、ここで死体を見つけたらどうするんですか」
「宝物にする」
と言うと先輩はおもむろにコンビニで買ったとおぼわしき缶チューハイを開けた。
「宝物って、具体的には?」
「眺めるしかないね。」
無性に酒を飲んでみたくなったので、1口ねだるとビニール袋に隠れていた、もう1缶のビールを勧められた。先輩はツマミにスモークタンを開けた。
初めて飲んだビールは、言われるほど苦くないと思った。そして、ぬるいと不味い。
「明日からまたお金の心配や…」