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愛はいつだって

「パパ大丈夫?」

 末っ子の氷華が、ボロボロになった僕に心配そうに言う。

「ふん、まだ殴り足りんわ!!この程度で許してやったことに感謝しろ!!」

 僕が答えるよりも先に、不機嫌そうに立ち上がり、食器を片付ける妻。

 夕食中、全く生きた心地がしなかった。それは、子どもたちも一緒だろう。


「パパ、ママと喧嘩したの?」

 そんな中、いまいち状況の分かっていない氷華は、そう言う。

「喧嘩…って言っていいのかなぁ…」

 死なない様に手加減してくれているとはいえ、一方的な虐殺に近いそれを喧嘩というのだろうか?

「パパ凄い、ママと喧嘩して生きてる。」

 そんなこととは知らない氷華は、何故か尊敬の眼差しで僕を見る。

「何も誇ることはないんだよ。そもそも、喧嘩なんかしない方がいいんだから…」

 そう、喧嘩なんかしない方がいい。命がいくつあっても足りない。


「ところで氷華、学校でお友達は出来たかい?」

 怖い現実から逃避するように、入学したての次女に質問する。

「いないよ。」

 当然、という様に返す娘に不安を覚える。

「そ、そうか…まあ、まだ入学して1週間くらいだし、直ぐに友達も出来るよ。」

 そう励ます僕に、氷華は首を傾げながら少し考え、

「ん~…いらないかな。」

 と結論を出していた。


「ほら、お風呂入るよ。」

 そんないたたまれない空気の中、凛樹が氷華の手を取り風呂場に連れて行く。

「お姉ちゃんは友達いるの?」

 手を引かれながら、氷華はそう姉に問う。

「いるよ。いた方がいいよ。」

 そう淡々と返す凛樹に、氷華はもう1度考えていた。


「やっぱりいらないかな。」


 末っ子の将来が心配でならなかった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「あのー、神娘さん?まだ怒ってます?」

 氷華を寝かしつけ、寝室に入った妻に恐る恐る質問する。

「当たり前だ…」

 ムスッとした表情でベットに腰を下ろす神娘。


「もう若くないとは分かっている…」

 そう天井を見つめて溜息を漏らす妻。

「しかし、若く…昔のままでいたいと思うのが悪いのか?」

「神娘は今でも綺麗だ。」

 そう答える僕は押し倒され、神娘が覆い被さる。

「ならば、何故最近は営みを避ける!!私に飽きたのだろう!!今日は久しぶりのデートだと思っていたのに!!」

 派手な下着姿の妻の不機嫌な声に、僕は本当のことを伝える。


「疲れてただけです…最近忙しくて…」

 そう、有り難いことにここ暫く店は繁盛していて、仕込みに接客にと大忙しで、ベットに入れば直ぐに睡魔に襲われていたのだ。

 昔はヒーロー業にバイトと駆け回っても平気だったのに、やっぱり、老いには勝てないと思う今日此頃。


「いつだって神娘を愛してるよ。」

 世界で一番強い彼女は、凄く乱暴だし、時折面倒くさいけど、それでも彼女以外に僕の妻はいないのだ。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「おはよう…あれママ、今日なんかツヤツヤしてる。」

 起きて来た氷華が、母の姿を見てそう首を傾げる。

 そんな妹の姿に、姉凛樹は気まずそうに目を逸らした。


「光を起こしてくる。」

 そう言って、上機嫌に歩く母とは対照的に、ゲッソリとした僕を見て、氷華は更に首を傾げる。

「なんでパパは寝たのに疲れているの?」

 寝たから疲れたんだよ。

 そうは答えられず、曖昧で弱々しい、乾いた笑みだけで答える。


 …娘よ、これが一仕事やり終えた、中年男性の姿だ。


「起きろクソガキ!!」

 毎朝恒例の神娘の怒声が響く我が家。


 今日も我が家は平常運転だ。









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