陰に生きる者
「…誘拐!?氷華が!?」
蚊の鳴くような声で起こったことを話してくれた氷華の友達こと、黒瀬香紅璃さん。
その制服からして、光と同じ英雄高校の生徒であろう彼女は、どこか神娘に似た見た目をしているが、全くの別人だ。威圧感が圧倒的に違う。
似非和風清楚な我が妻とは違い、本物の和風清楚な美少女は、凛樹に絡まれ、震えながら氷華の心配をしていたが、
「いうて大丈夫っしょ!!氷華強いし、そもそもママがいるし。」
と凛樹に一蹴され、写真を撮る為に自室に引き摺り込まれていた。
「ママ、黙っててごめんなさい…」
「僕も黙っていてごめんなさい…」
氷華と岩穿が怯えながら神娘に謝る。
2人が誘拐未遂を黙っていたのは、氷華のオーバーキルを神娘に知られない為だったのだが、だからといって黙っていていい問題ではない。僕も神娘も、この子たちの親なのだから。
氷華は強い、神娘以外に勝てる相手はいないんじゃないかって程に強い。
しかし、まだまだ幼く危なっかしい子どもだ。そんな娘が心配で心配で仕方ないのが親である僕と神娘だ。
氷華が危険な目に遭っていると神娘が知っていたら、神娘は家事もプリン屋の手伝いもせずにその元凶を潰しに行っていた筈だし、僕もそれに賛同した。
それくらい親としての思いがある。
それを怒られたくないという理由で黙っていた2人に、怒らなければいけないという思いと同時に、2人が黙っていた原因…
我が家最高の問題にして、決して触れてはいけない問題。
『神娘が怖すぎる』問題に直面していた。
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「神也さん、お風呂ですか?お風呂ですね!!一緒に行きましょう!!」
「頼むから帰ってくれ!!」
シュバリエさんと神也さんのやり取りなど完全に無視し、食卓に並んだ食事の9割以上をたった1人で平らげ、ご満悦といった表情のメイトリクスさんは、床に寝転がりながらデバイスを弄っている。
「あ、凛樹が新しい画像アップしてる。」
能天気にそんなことを言いながら我が家の如くくつろぐ彼女は、ほんの数時間前まで武生院に居候することにブーブーと文句を垂れていたとは思えない姿だ。
「私程じゃないけど、凛樹は可愛いわね。…ゲフッ!!」
年頃の乙女とは思えないゲップをしたメイトリクスさんに、僕は凄く冷めた目を向けていた。
「モフ白〜、飲み物〜。」
そんな視線に気付いていないのか、それとも恥じらいがないのか、彼女は平然と僕に命令をする。
「はい…」
納得いかない思いを押し殺し、僕は湯呑みに入ったお茶を差し出す。
それを受け取った彼女は、
「お茶嫌〜い、ジュースがいい。」
と突っぱねた。
なんだろう…暴力は絶対にダメだと思うけど、彼女は一発くらいぶん殴ってもいい気がしてきた…
「どうぞ…」
そんな思いを押し殺し、台所まで走りってジュースをとって来た僕。
「蓋くらい開けなさいよ…気が利かないわね~。」
ゴロゴロと寝転がりながら生意気に言うメイトリクスさん。蹴っ飛ばしてやろうか…
「はぁ!?…なんで黒瀬が凛樹と写ってんのよ!!」
蹴っ飛ばそうと思った直後、メイトリクスさんはそう怒鳴って立ち上がった。
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「もうやだぁ…」
ギャル(凛樹ちゃん)に捕まり、何枚も写真を撮られ、私は限界に達していた。
人の目を見るのでさえ出来ないのに、陽の光に当たる世界に生きる筆頭みたいな超絶パリピである凛樹ちゃんの圧は、陰でジメッと生きる私には耐え難いものだった。
能力を使い影に潜り込む。
「あ~!!待ってよ~香紅璃ちゃん。」
彼女の追えない、影の世界を進み彼女の部屋を出た。
我ながら便利な能力だ。
にゅるん、と影から飛び出す。
「ただいま…は?なんで黒瀬?」
最悪のタイミングで同級生とかち合った。いや、彼の家だし、彼は悪くないんだけど…とにかく最悪のタイミングだった。
「お、お邪魔してます…」
目を合わさずにボソボソとそう言うことしか出来ない。
学校では隠していた私の能力。
影を操るだけの能力と公表していたのが嘘だとバレた瞬間だった。




