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信頼

「今何時だと…」

 もの凄く怒っているのが分かる声が、私の姿を見て止まる。

 凄く若く見えるけど…この人が氷華ちゃんのお母さんかな?


 小学1年生の帰宅時間にしては遅過ぎる時間になっていたので、私は氷華ちゃんを家まで送ることにした。

 意気揚々と自宅まで歩く氷華ちゃんと手を繋いで歩く。

「急に泣いてごめんね…私の方がお姉ちゃんなのに…」

 思い出すだけで自己嫌悪で死にたくなる。 

 自分よりも10歳近く歳下の幼女に泣きじゃくる姿を見られたどころか、慰められたのだから。

「凛樹お姉ちゃんは毎日ママに怒られて泣いてるけど、氷華のお姉ちゃん。」

 縁石の上を歩きながら淡々と言う氷華ちゃん。

 多分、私が考えていることと彼女が考えていることは全然違うと思う。

 でも、そんな風に、人それぞれ考え方は違うのだと思う。そう割り切れたら楽なのかな…

 絶対に無理だけど…


「到着。」

 氷華ちゃんがムフーと満足そうに言う。

 『百道のプリン』と看板が掲げられた店舗の裏に私たちは向う。

 あれぇ?ここって…

「ちょっと待って!!」

 ここはダメだ。だって、同級生の家だもん!

「ただいま。」

 しかし、私の静止が間に合わず、躊躇いなく玄関を開ける氷華ちゃん。

「氷華!!」

 凄く心配していた顔で黒髪の美人が現れた。お母さんかな?

「今何時だと…」

 しかし、直後溢れ出した殺気に身体がガタガタと震え出す。呼吸さえ出来ない程に。

「香紅璃お姉ちゃんは氷華助けてくれた…ママ怒っちゃダメ…」

 私同様に震えながら言う氷華ちゃん。

「ウチの娘がご迷惑をおかけ致しました!!」

 黒髪の美人さんが深々と頭を下げた。


 氷華ちゃん、実の母親からどんだけ信頼ないんだろう…



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「バカ娘ぇ!!わりゃ、もうちょい目立たずに動かんかい!!」

「うるせぇクソババア!!テメェのせいでこっちとりゃ減点に罰金じゃボケェ!!」

 阿賀院に響く母娘喧嘩の声。

「違反はアンタが悪いんじゃろうが!!」

「うっせぇ!!クソババア!!」

 阿賀院の当主、阿賀扇風(せんか)と次期当主である舞風の言い争いが続く。

「その罰金払うんもわしじゃ!!ええかげん働きんしゃい!!バカ娘が!!バイク買ってやったんもわしじゃし、大概にしくさりゃ!!われんごたぁ娘持って、わしゃもうわやじゃ!!」

「じゃったら捨てぇや!!俺ゃ神娘姉の妹じゃけぇ!!浮気相手の子じゃけぇのぉ!!」

 お互いにダラダラと血を流しながら殴り合い、怒鳴り合う。

「じゃったら出てき!!ウチかてアンタァみたいな不良娘願い下げじゃ!!」

「俺かて願い下げじゃ!!」

 そう怒鳴り飛び出す舞風。


 バイクの奏でる爆音が阿賀院に響く。

「扇風様…お嬢の跡は…」

「つけんでええ。どうせあの不良娘が行く先なんか決まっとるけぇ。」

 阿賀の不良娘と言えば舞風のことを指す。

 大卒1年目、定職に就かず、実家も継がず、実家に寄生しながら暴れ回る舞風は、先日バイトを首になったばかり。

 そんな不良娘の行く先は1つ。

 腹違いの姉にして最強の生物。

 武生院の最高傑作にして失敗作。

 憧れ、慕う姉、百道神娘の元しかないと扇風は溜息を吐く。

「わしを超える天才なんじゃけどなぁ…」

 東西それぞれの最強の血をひく舞風を跡継ぎとしたことを後悔していないが、少し不安になる。



「金がねぇ…」

 バイクを走らせ数時間、停車したコンビニで無職の舞風は打ちひしがれていた。




 

 


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