それぞれの帰宅
「クリスティンさん、留学中はどこに住んでるの?」
そんなことを聞いてくるクラスメイト。
「別に何処だっていいでしょ…」
その質問には答えずに私は帰路についた。
辿り着いた先、目の前に聳え立つ木製の立派な門。
その門の上部に掲げられているのは、『武生院』という文字。
「どうです?神也さん!!私強いでしょう!?武生院に相応しい跡取りを産めると思うんですが!!」
門の中から聞こえてくる声こそ全ての原因。
「あのバカ秘書…」
己の欲望の為に、本来拠点として今日から1年契約で借りる予定だったホテルを急遽キャンセルし武生院に居候することを勝手に決めたバカ秘書ことアイギス・シュバリエ。
そんなバカ秘書に武生紅雪も賛同し、何故か私の留学生活の拠点が武生院ということになってしまった。
溜息を吐きながら門を潜る。
「あ、お帰りなさい、メイトリクスさん。」
箒片手に掃除中の白くてデッカイ怪獣が私に気付く。
「ただいま…ってかアンタ馴染み過ぎじゃない!?」
モフモフしたそいつは、百道家のペットでモフ白というらしいのだが、あの小さなプリン屋には入らないので武生院で預かっているらしい。それにしても馴染み過ぎだと思うし、怪獣を平然と受け入れる武生院は異常だと思う。
「お世話になっている以上、何かお役に立ちたくって…」
照れくさそうに笑うモフ白。
怪獣にしておくには惜しい存在であるのは確かだ。
「で、あのバカ秘書と神也の進捗はどうなのよ?」
「朝からずっとあんな調子ですね。シュバリエさんの猛烈アプローチを神也さんが逃げ続けています。」
そう答えるモフ白。
「脈なしでしょ…さっさと諦めたらいいのに…」
溜息を漏らし私用に用意された部屋に向かった。
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「あれぇ~?なんでおじいちゃんいるの?」
ガチ泣きしていた筈の凛樹がケロッとした顔で祖父を見つけてそう質問している。
「ほほ…ちぃっと、神娘に用があったのじゃが、もう終わったので凛樹ちゃんと氷華ちゃんの顔見て帰ろうと思っておったのじゃよ。」
そう答える祖父に凛樹は更に訊ねる。
「で、氷華は?」
そう、普通ならとっくに帰宅している筈の時間何に姿の見えない妹の所在を凛樹は気にしていた。
「それがまだでのぉ…氷華ちゃんは可愛いから危ないことに巻き込まれてないとよいのじゃが…」
「大丈夫でしょ〜。氷華に勝てるのママくらいだし〜。」
危険か危険じゃないかではなく、そもそも勝てる相手が限られ過ぎていることを言う凛樹。うん、氷華滅茶苦茶強いもんね。
我が娘ながら恐ろしく強い。ついでに言うと、凛樹も滅茶苦茶強い。僕なんか比べものにならない程に…
「しかし、それにしても遅いのぉ~。」
心配で仕方ない様子の紅雪はソワソワしている。
「大丈夫だってば〜。」
それに対して凛樹はヘラヘラと笑いながらデバイスを弄っている。
「ただいま。」
「ほらね。」
玄関から聞こえた氷華の声に凛樹はそう言う。
「氷華!!」
慌てて玄関に向かったのは神娘だった。
紅雪以上に落ち着かず、探しに行くか待つかの葛藤で立ったり座ったりを繰り返していた妻。多分1番心配していたのは彼女だろう。
そういうところは本当に普通の母親だ。
「今何時だと…」
玄関から聞こえた神娘の怒声は途中で止まった。
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夜の飲み屋街に突風が巻き起こり、戦闘中だったヒーローとヴィランが吹き飛ばされる。
2人の飛ばされた先には、真っ赤なボサボサのロングヘアーの美女。
「ウチのシマでなにしとんじゃぁーーーっ!!」
美女はヒーローとヴィランの顔面に両の拳を叩き込んだ。
風に乗った勢いもプラスされた拳は、2人の意識を刈り取るには十分以上だった。
「阿賀のシマで暴れるたぁ…ふてぇ野郎だぜ。」
そんな光景を見ていた酔っ払いがおっかなそうに首をすぼめながら呟く。
『武生院』と並び称される西の名門『阿賀院』。
そんな西の武門の次期当主である赤髪の美女は、タバコを口に咥え、紫煙を吐き出し、
「なに見てんだぁ!!見世物じゃねぇぞっ!!」
酔っ払いたちを威嚇する。
「ぶちたいぎぃ…」
そう呟きながらノーヘルでバイクに跨る。
「あのクソババア…掃除くれぇテメェでやれってんだ…」
愚痴を溢しながら夜の街を爆音を響かせながら走る。
阿賀舞風。
風を操る能力と阿賀院直伝の格闘術で数多のヴィランとヒーローを戦闘不能にしてきた阿賀院の次期当主は…
「そこのバイク、止まりなさい!!」
ノーヘル走行による違反で警察に捕まっていた。




