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武生院

「あらぁ~、百道さん。お宅が羨ましいわ~。ウチの旦那なんてーーー」

「4人もお子さんがいるのに、お若っくて羨ましいわぁ〜。」

 夕飯の食材を買うだけで、こんなにも辱めを受けるのか…

 おべっかを使いながら住宅街を足早に歩く。

「うぅぅっ…」

 もう一人欲しい。

 そう思ったのは私だし、悪いこととは思っていない。

 しかし、何故か人の噂には尾ひれどころか羽がつき、大空を舞う程に飛躍する。

 奥様方の言葉に耐え、家に帰った私は、買い物袋を置き、夫に言う。


「いっそ、街ごと消すか…」

「絶対にダメ!!」

 そう呟いた私を、乱鶯は全力で止めた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「おぉ、よく来たな。」

 僕たちを出迎える義父、武生(たけふ)紅雪(こうせつ)

 百道家の子どもたちにとって、5月の大型連休は、神娘の実家である武生院に預けられる日だ。

「おじいちゃん。」

「氷華ちゃ~ん、氷華ちゃんは可愛いのぉ~。」

 孫娘を抱き締める史上最強の武術家、武生紅雪に、僕は挨拶する。

「お義父(とう)さん、すみませんがお願いします。」


 結婚当初、義父とは不仲どころか、命を狙われる程だった(追っ手は全部神娘が片付けていた)が、孫となる光が誕生してから友好的な関係を築けており、凛樹、岩穿、氷華と、子が産まれる度に武生院のセキュリティは緩くなっていった。。


「ほほ、連休と言わず、一生預けても構わんのじゃが。」

 殺気全開で笑う義父。

 だが、僕だけ、今だ認められていない。

「キメェんだよ…クソジジィ…」

 ファミリーカーの助手席から降りた妻が、そんな義父以上の殺気を放って言う。

「「「「「お嬢!!」」」」」

 堅気とは思えない厳つい連中が隊列を組み、一斉に頭を垂れて神娘を出迎える。

 そんな等の本人は、一瞬だけ姿を消し、

「なあ、神也(かんや)。愛しのお姉様の帰宅だってぇのに…なに隠れてんだ?」

 義弟の首を締めながら強面の隊列に再び現れる。 

「おかえり!!姉さん!!…ごめんなさい!!死ぬ!!本当に死んじゃう!!」

 僕は、哀れな義弟に心の中で手を合わせた。

 


−−−−−−−−−−−−−−−−−



「やあ、久しぶり。義兄(にい)さん。姉さんは相変わらずで安心したよ。」

 はは、と曲がってはいけない方向に曲がった首のまま、僕に挨拶をする義弟。

「日々強くなって、頼もしい限りさ。」

 ははは、と笑ってそう答える。

「「はぁ~…」」

 2人で同時に溜息を吐く。


「家業を押し付ける形になって、本当に申し訳ないと思ってる…」

 武生院の時期当主は神娘の予定だった。それが嫁入りということで、全てを背負うこととなった義弟に謝罪する。

「謝られる筋はない、逆に、義兄さんには感謝してるよ。義兄のお陰で時代に合った…いや、違う、人を限界まで高める、本来の武生院に戻ることが出来た。」

 当主として、由緒正しき武生院を守る義弟は首を元の位置に戻し、晴れやかな表情でそう言う。

 それは、暗に神娘が当主に相応しくなかったと言っているのだが、僕もそう思う。

 神娘は強い。それはもう、べらぼうに強い。

 そんな強さに人は惹かれ、憧れるが、彼女になることは出来ない。

 強さの頂きを目指すのが武術であり、神を超える強さを目指すものではないからだ。

「それに、義兄を本当に尊敬するよ。あんな化け物みたいな姉を貰ってくれたんだから。あんなのメスゴリラだよ!!」

 ケラケラと笑う義弟から僕は目を逸らす。

 彼の後ろに立つ、妻の姿が見えたから。


「ほぉ…素敵なお姉様を、そういう風に思っていたのか?」

 ポン、と肩に手を置かれた義弟は、錆びついたブリキのおもちゃの様に、ギギギ、と首を動かす。

「ね、姉さん?…や、やだなぁ~、冗談だよ~…」

 真っ青な顔に汗が吹き出ている義弟。

「神也…」

 そんな義弟に、姉はニッコリと笑う。

「姉さん…」

 姉の笑みを見た弟。


「すみませんでしたぁ!!マジ勘弁して下さい!!姉さんは世界一の姉さんです!!」

 全力の土下座をした。

「心にもねぇことは、響かねぇんだよ…神也ぁ…」

 そんな義弟の頭を踏む妻。

「悪かったなぁ、メスゴリラの姉さんで。テメェが言ったんだぜ?メスゴリラってなぁ…メスゴリラはメスゴリラらしく、テメェを痛みつけても、問題はねぇだろ?」


 歩くトラウマ製造機である神娘が、悪魔の様に笑う姿に、義弟や僕だけでなく、武生院にいる全ての人間が、恐怖に震えた。


 



 


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