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氷華の宿題

「あお〜げば〜尊し〜…」

 入校間もない新入生である少女は、何故か懐かしい卒業式定番ソングを口ずさみながら下校していた。


「学校、嫌いなのかな…」

 そんな少女の担任となった教師は、少女のその歌を、早く卒業したい、そんな思いだと解釈し、落ち込んでいた。

 担当するクラスでは、特に問題は起こっていない筈…

 なら、原因は私なのだろうか…

 勝手な思い込みで頭を抱える彼女は、少女がただ聞き齧った歌を歌っていただけだということを知らなかった。


「今日も異常なし。」

 歌い終え、1人満足そうに歩く氷華。


 彼女は、少女に友だちがいないことも知らなかった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「ただいま。」

 玄関を開けてそう言うが、返事は何もない。

「ママも今日はお店…」

 自宅兼店舗であるプリン屋。

 日々プリンを作り、売るパパをママは助けている。主に用心棒として。

「ママに接客は無理。」

 以前お姉ちゃんが言っていた言葉。あまり理解していないが、大人っぽくて格好良く思ったので、なんとなくそう口ずさむ。


「おやつ…」

 教わった通りに手洗いうがいを済ませ、リビングに向かう。

「…届いた。」

 冷蔵庫に入れられたプリンを、初めて踏み台無しで取れ、達成感に満たされる。

 我が家のおやつは毎日プリンだ。なんなら、デザートも毎日プリンだ。

 蓋に、『ひょうか』と平仮名と書かれたプリンを開け、一口スプーンで掬う。

「うん、今日も美味しい。」

 私好みのカチカチプリンに舌鼓を打つ。

 

「ごちそうさま。」

 空になった容器に手を合わせ、そう言う。

「宿題しよう。」

 今日の宿題は家族についての作文。

 明日は授業参観でママも見に来る。

「頑張る。」

 グッ、と気合を入れて原稿用紙と向き合う。

 我が家は仲良し家族だ。パパとママはこの間喧嘩してたし、光お兄ちゃんは毎日殴られてるけど、仲良しなのだ。

「そうだ、この間パパとママがプロレスごっこしてたことを書こう。」

 夜、トイレに向かう途中に見た光景。きっと素晴らしい仲良しエピソードだと思う。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「ただいま〜。」

「岩穿お兄ちゃん、作文読んで。」

 帰宅早々、妹がそう言って原稿用紙を押し付ける。

「『私の家族』?…ああ、宿題ね。」

 そういえば、そんな宿題もあったな~。と懐かしさを感じながら妹の作文を読む。


「…氷華、書き直そう。」

 あまりにも無邪気な妹の作文を突き返した。



−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

「小学生にはまだ早いわね…」

 お姉ちゃんからもやり直しを命じられ、

「お兄ちゃんのことをもっと書いた方がいい。」

 と光お兄ちゃんからダメ出しを食らう。


「上手に書けたのに…」

 何がいけないのか、誰も教えてくれない。


「さて、夕飯だな。」

「今日は繁盛したね。」

 閉店作業を終えたママとパパが帰って来た。

 私の頭を撫で、台所に行ったママ。

 作文は授業参観の時に読む。ママには見せれない。

「パパ、作文読んで。」

 ソファに座るパパに駆け寄り、原稿用紙を差し出した。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 この間のことだよね…

 

 娘の可愛らしい作文に、最初は笑顔と涙が漏れていたが、今は嫌な汗しか出ない。

「…氷華、凄く上手に出来てる。」

 そう言って頭を撫でると、嬉しそうに氷華が笑う。

 心が痛むなぁ…


「でも、書き直そうか。」

 流石にこれはダメだ。

 小学校1年の教室で読まれるには、あまりにも僕ら夫婦の秘事が描かれ過ぎている。

 汚れを知らない無垢な娘。

 その無垢さに恐怖を感じた。


 




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