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我が家では禁止された職業

「凛樹〜、今日一緒に買い物行こ〜。」

 昼休み、そう誘う友人。

「ごめ〜ん、今月ピンチ。」

 お小遣いを使い尽くした現在、財布は氷河期を迎えているのだ。


「はぁ…なんか手っ取り早く稼げたらなぁ…」

 1人繁華街を歩く。

 今日は散々だった。

 朝から生徒指導部に呼ばれ、友だちの誘いは断らざるを得ず、おまけに、食欲を誘う出店や魅力的なコスメが並ぶのに、金欠で何も買えない。

「ママみたいに賞金稼ぎ…」

 そんな発想が頭を過るが、

「戦うとか面倒くさい…」

 直ぐにそれはないと思う。


 正直、私は可愛い。それに綺麗だし、スタイルだって抜群だ。

 今だって、街を歩くだけで注目を受けている。

 そう、私は可愛いのだ。 

 そんな私に相応しい仕事…

 以前、街を歩いていた時に渡された名刺を思い出して鞄の中を漁る。


「あった…」

 あの時は興味なかった…でも今は違う。


「アイドル…」

 そんな結論に辿り着いた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「アイドルになる。」


 そんなことを言い出した娘に、僕は頭を抱える。

 親の贔屓目なしに、凛樹は可愛い。

 それは間違いないのだが、だからといって、怪しげな名刺1枚を信じるわけにはいかないのだ。

「たった1回のスカウトなんて…」

 そう反論しようとした僕に、凛樹は鞄をひっくり返す。

「毎週誘われるんだよね~。まあ、私可愛いから仕方ないけど。」

 ドヤ顔で言う凛樹。

 名刺と共に、卓上に散らばる鞄の中身。

 鞄の中汚いな…

 凛樹は片付けが出来ない子だった。


「ただのアイドルじゃないの!!ヒーローアイドル!!ね?パパ、お願〜い。」

 猫撫で声でそう言う凛樹。

「ダメっ!!」

 そう直ぐさま否定するが、

「お願いっ!!」

 今度は上目遣いで迫る。

 なんて可愛いのだろう…


「ダメと言ったらダメだ…分からないのなら、身体で分からせるしかあるまい。」

 今まで黙って聞いていた神娘が、ユラリと立ち上がる。

「ごめんなさい、もう言いません。」

 凛樹が一瞬で土下座した。

「何がヒーローアイドルだ…くだらんことに付き合わせるな!!」

 怒り心頭に立ち去る神娘。


「なんであんなに怒るのよ~!!」

 ブスッと不機嫌な凛樹はソファに八つ当たりしている。


 ごめん、僕のせいだ。


 結婚前、引越し前の整理を手伝いに来た神娘は、僕のボロアパートでヒーローアイドルのグッズを見つけた。

 それ以降、神娘はその類を毛嫌いしているのだ。

 怪しい勧誘とはいえ、娘の夢を1つ絶った僕の前科。

 後ろめたいものを感じながら居間を出た。


「神娘さん?怒ってます?」

 寝室で殺気全開の妻に恐る恐る質問する。

「怒ってなどおらんさ…」

 ニッコリと笑う妻に、膝がガクガクと震えだす。

「ただ、私というものがありながら、別の女にうつつを抜かす愚か者がいたことを思い出しただけだ。」

 天地がひっくり返る様な殺気。

 滅茶苦茶怒ってる。

「も、もう20年近く前の話ですから…」

「20年経てば、妻より娘の方が可愛いくなるんだな。」

 先程のことも怒っておられる様だ。


「今宵は寝かさぬぞ?」

 殺気を放つ妻。

 男らしくて素敵です…


 覚悟を決めた僕は、ベットに横たわる。










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