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駄菓子は大人になっても楽しめる

「メイトリクスさん…」

 黒瀬香紅璃のが涙目で私の名を呟いた。

 襲撃者を闇に呑み込んだ彼女の前に私は飛び出した。

 なんでそうしたのか、自分でも分からない。

 戦うなら情報が足りない。彼女の味方になるのは利益が足りない…友となるには信頼が足りない。

 何もかも未知の相手を前に退くことを決意した筈の足が無意識に飛び出した。彼女に対して唯一たるものがあるからだ。


「やっぱりアンタ気に入らない!!」

 そう、ただそれだけだ。

「黒瀬香紅璃!!アンタは一生私の敵よ!!」

 生涯のライバルに相応しい。

 認めたくないが私と同等かそれ以上…

 違う…


 負けたくない。

 絶対に勝ちたい。

 そんな相手であると認識した。


「だから財布を出すな!!カツアゲじゃないって言ってんでしょうが!!」

 対する当の本人は泣きながら財布を差し出していた。

 これが私のライバル…

 コミュ障令嬢、黒瀬香紅璃。


 彼女をライバルと認定したことを秒で後悔した。

 



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「ちょっと停めてくれます?」

 姐さんと舞風を後部座席に乗せたタクシーはマンションの建ち並ぶ住宅街の一画を走っていたが、古めかしい屋根看板が目に入り、思わず運転手にそう伝えてしまった。

 急ブレーキ気味に路肩に停まるタクシー。その揺れで寝ている方が良い舞風が目覚め、姐さんも眉間にシワを寄せた。

「すみません…随分と楽しそうなのを見つけたもので。」

 そう後部座席を向いて私は言った。


 タクシーを降りた私たちの前に見えるのは、『駄菓子』の看板。

「この錆びれたレトロ感がたまらんですね!!」

 ハイテンションな私に対し、姐さんと舞風はローテーションだ。

 そんなのは気にせず、今や文化遺産ともいえるセキュリティもクソもない建付けの悪い、ガラス張りの引き戸を開ける。

「ああ!!よか!!これよ!!あくまで駄菓子屋!!子ども目線の低い陳列棚!!今日日有り得ない価格設定!!子どもたちの楽園!!こげな場所がこん東京砂漠に残っとるとか…それだけで泣けてくるたい!!」

 細々と、それでいて一本筋を通し、子どもたちの楽園を守る老婆に頭を下げた。


「知らん世界じゃのぉ…俺らんときゃスーパーのお菓子売り場じゃったけぇ。…神娘姉世代は知っちょるん?」

 駄菓子屋をざっと見ながら、さしたる感度もなさげにそう言う舞風。

「知らん。あと、私はお前たちと同世代だからな!!」

 一回り年上の姐さんは少し怒気を放ちそう言う。

 30代後半の姐さんと20代前半・中盤の私たち…流石に無理がありますよ?

 とは恐ろしくて言えないが、どっちの世代からしても古き昔の文化である。

 

「相変わらずのレトロ趣味だな…」

 姐さんは溜息を吐きながら、我が子のオヤツを物色し、舞風はそれにくっついて行動していた。

「懐かしな!!まだあったのかこれ!!」

「なんでここ手羽先ないんじゃ!!…カープカツもない!!なんでじゃ!!」

 なんやかんや楽しみながら。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「お帰り神娘…」

 後ろのふたりは見ずにそう言う。

「すまない乱鶯…つい、な…」

 そう駄菓子でいっぱいになった袋に微かに赤く頬を染め神娘は僕に頭を下げる。

「うん…神娘が楽しかったならそれでいいよ。」

 幼心を忘れない、そんな妻が可愛く見えた。


「駄菓子は酒の肴にもなるのぉ。」

「子どもも大人も楽しめて最高たい。」

 真っ昼間から酒盛りを始める義妹とNo.2ヒーロー。

「姐さんは飲まんとね?」

「絶対にダメ!!絶対に神娘は飲んじゃダメだからね!!」

「長永!!なんちゅうこといいよんじゃ!!神娘姉にゃぁ絶対に飲ませちゃいかんけぇな!!」

 そんなブルーエッジの献杯を義妹と僕は全力で阻止する。

「「僕は(俺ぁ)まだ死にたくない(んじゃ)!!」」

 神娘とアルコール、最悪の組み合わせだけは回避しなければならない。


 あの悲劇の結婚式を繰り返させない為に…







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