兄より優れた妹などいない!
読む専だった自分が、何か書きたいと思い初挑戦した作品です。
つたない文章ですが楽しんでもらえたら幸いです。
俺――新島春人には、新島春菜という一つ下の妹がいる。身内贔屓を無しにしてもかなりの美少女だ。外を歩いてすれ違った人が10人いれば、12人は振り返るだろう。
え、人数が合わない? 気にするな。
勉学も学年主席で、スポーツ万能、品行方正で教師のウケもいい。そんな完璧超人の妹様でも、唯一決定的な欠点がある。それも致命的な。
◇◇◇
「おにーちゃん!」
俺が学校から帰宅するために席を立つと、教室の後方のドアが開き我が妹がやってきた。普通、学年が違う教室に入るのは気まずいと思うのだが、春菜に関してはそんな常識は当てはまらないらしい。
「春菜、教室まで来るなって言ってるだろ」
俺が苦い声で指摘しても笑顔を崩さずお構いなしに近づいてくる。まだ教室に残っているクラスメイトたちは、いつものやり取りだと遠巻きに眺めている。
「お兄ちゃんが遅いから迎えに来てあげたんだよ! ささ早く帰ろ♪」
「お、おい引っ張るな」
春菜はそう言うや否や、鞄を持ってない方の手を俺の腕に絡めて来た。平均以上に育った豊かな胸が俺の二の腕辺りに当たっているが、妹のでは嬉しくないしドキドキしない。……いや、正直に言えば嬉しいしドキドキするけどさ。もちろん顔には出さない。お兄ちゃんとしての意地だ。
春菜の横顔を見ると、今の機嫌を表すかの如くポニーテールがぴょこぴょこと跳ねていた。
「あ、あの新島さん!」
「「はい?」」
「あ、は、春菜さんの方です」
教室を出て二人で廊下を歩いて(引きずられて)いると後ろから声を掛けられた。後ろを振り向くと見覚えのない少年が立っていた。クラス章を見て見ると一年だったので、おそらく春菜のクラスメイトか何かだろう。
「……佐々木くん?」
うん、やっぱり春菜のクラスメイトだったか。
「え……。いや、佐々山です」
惜しい!漢字なら一文字違い――じゃなくて、クラスメイトの名前ぐらい覚えようぜマイシスター。
見てみろ。佐々山くん少し涙目になってるじゃないか。
「それでですね春菜さん」
「えと、佐々山くんね。あのさ、名前で呼ぶのやめてもらえる?」
「え」
「いい? 私の名前を呼んでいい男の人はお兄ちゃんだけなの!」
おい、親父を忘れるな。泣くぞ? 大の大人が泣きわめくぞ?
「私のことは、新島さん。お兄ちゃんのことは、新島先輩だからね。わかった?」
「あ、ハイ」
佐々山くんの目の端から汗が流れてる気がするが、同じ男として気づいてないフリをしてやろう。
「で、何か私に用事?」
「いや、その……。きょ、今日良かったらカラオケ行かない? 仲の良いクラスメイトに声を掛けてるんだけどさ「行かない」都合が……」
佐々山くんの話を最後まで聞いてあげて。物凄く空気が痛い。
「仲の良いクラスメイトって……私と佐々山くん別に仲良くないよね?」
あ、佐々山くんの瞳からハイライトが消えた。
「それに、男の人と遊びに行くことは絶対にないから。お兄ちゃんを除いて」
「う」
「「う?」」
「うわぁぁぁぁぁぁん」
あぁ、佐々山くん泣きながら走って行っちゃった。
周りにいた学生たちの方から「また身の程知らずが……」「これで何人目だ?」「新島春人コロス」「新島さん可愛い」「あの兄さえいなければ」「あの天然さがイイ」などと聞こえてきた。
てか、なんか物騒な言葉が聞こえた気がするけど!?
オイ! どこのどいつだ。謝るから許して?
「春菜。もう少し断り方ってものをだな……」
「別にいいでしょ私の問題なんだから。そんなことより帰ろ?」
我が妹ながら将来が心配だ。
◇◇◇
結局あのまま腕を組まれた状態で帰宅しましたとも。もちろん、超美少女級の女子高生と腕を組んでいたため街中から視線のレーザービーム――普通に殺意のこもった視線――を浴びせられ胃に穴が開きそう。まあ、もう慣れたが。
「お兄ちゃん!」
玄関のドアを開けるなり春菜は、てててと小走りに家の中に入りクルッとターンを決め俺に最高の笑顔を見せお辞儀をした。
「お帰りなさいませご主人様」
うん、たまに妹が何を言ってるのかわからない。
「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……わ・た・し?」
マイシスターよ、ご飯の準備は母さんがしてるからまだできてないし、お風呂はマイシスターが先に入るだろ。そして最後の選択肢はなんだ。俺が絶対に選ばないと思って言ってるんだろうが……選んだらどうなるんだ?
「じゃあ春菜で」
「ふぇっ」
冗談で春菜を選ぶと、顔を真っ赤にさせて俯きモジモジし始めた。恥ずかしがるなら最初から選択肢に入れるな。
「流石に冗談――『ドサッ』――ん?」
背後で物音がしたから振り返ると、鞄を地面に落として口からエクトプラズマを吐き出している親父がいた。ヤバい。急いで誤解を解かないと。
「あ、あの親父? 今のは誤解だ。春菜のお遊びに付き合っ「付き合う!?」て――ちげぇよ! 面倒くせーな!
だから冗談「お、お兄ちゃん。私先にお風呂入ってくるから。部屋で待ってて!」で――待て行くな春菜! せめて誤解だと」
このカオスな状況を放置して去ろうとする春菜を追いかけようとしたとこで『ガシッ』と肩を掴まれた。
「春人。ちょっと父さんとO・HA・NA・SHIしようか」
「あ、ああ。わかった」
◇◇◇
長かった。それはもう長かった。誤解を解くだけだったのに何故か一時間も外で親父と話し合っていた。誤解自体は十分ぐらいで解けたが、その後は親父の愚痴を聞き続けた。
「春人。春菜が最近構ってくれない」
いや、知らんがな。
「昔は良くお父さんお父さんって言ってたのに」
おかしいな。俺の記憶ではそんな事実はない。小さい時から春菜は親父には……いや、男には近づかなかった。そしてその原因は俺にある。
春菜は小さい頃、不審者に誘拐されそうになった。
◆◆◆
当時、俺が小学3年生だった頃、友達と遊びに出かけようとすると毎回春奈が付いてきていた。その頃は両親が共働きだった事もあり仕方なく一緒に遊んでいた。最初の数回は別に問題はなかったが、回数を重ねる毎に友達が俺を揶揄うようになった。まだ小学2年生だった春菜は体力もなく、人見知りする性格だった為、俺にべったりくっつき遊びの妨げになっていた。
「おい春人。また妹と一緒かよ」
「女と一緒になんて遊べねーよ! 恥ずかしくねーのか?」
正直、俺も毎回ついてくる妹を鬱陶しく思っていたし、友達に揶揄われるたびイライラした気持ちが蓄積されていった。
そして、とうとうそれが爆発した。
「いい加減ついてくんな! お前がいると遊べないんだよ! 帰れよ!」
「お、おにいちゃっ」
この日は、家から少し離れた公園に集合して、近くの山で遊ぶ予定だった。
体力があまりない妹に合わせて遊ぶと、できる遊びが限られるし、揶揄われることに限界が来ていた。
だから俺は、公園に向かう途中で春菜を振り切り走った。
普通に考えたら、家を出る前に妹を置いてきたらよかったし、そもそも家の鍵は俺が持っていたのだから、春菜が家に入ることはできなかったんだ。
でも、この日はちょっとした嫌がらせで妹を置き去りにした。置き去りにしてしまった。
「あれ? 今日は妹いねーんだな」
「まあ、ちょっとね。それより早く行こうぜ」
ひょとしたら追いかけて来るんじゃないかと思い友達を急かし、遊ぶ予定の山に向けて歩き出した。
「――だってさ。――。」
「――。なんだよそれウケる。なあ春人もそう思うよな?」
「……え? ゴメン聞いてなかった」
しばらく歩きながら友達と会話していたが、ふと気が付けば置き去りにした妹の事ばかり考えていた。
「んだよもう話聞けよ。だからこの辺りで不審者がでるんだってさ母ちゃんが言ってた」
「そうそう。それも女ばっかり狙った変態だって。いきなり服脱いで裸見せて来るんだってさクッソウケる」
その話を聞いた瞬間頭が真っ白になった。そして直ぐに思い浮かぶのは春菜の泣き顔だった。
「っ!!」
「あ、おいどこに行くんだよ!」
「春人!?」
気が付いたら俺は全力で来た道を走っていた。
頭に過るのは春菜への罪悪感だった。
なんで置いて来たんだろうか。なんで一緒に遊んでやらなかったんだろうか。なんで手を振り払ったんだろうか。なんで。なんで。なんで。
――息が苦しい。
きっと春菜は大丈夫だろう。
――肺が痛い。
きっと今頃家に帰っているだろう。
――頭が痛い。
こんな昼間から不審者なんて出ないだろう。
――足が痛い。
そもそもそう簡単に不審者に出会わないだろう。
――心が、痛い。
唯々夢中で走った俺は、集合場所だった公園まで戻ってきた。
そして、その公園に妹はいた。黒いコートを着た大人の男に手を掴まれ泣いていた。
「――春菜!」
「――っおにいちゃん!!」
「ぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
息が上がりかすれた声しか出せなかった。それでも妹は、春菜は気が付き俺に助けを求めた。
目の前が真っ赤になり無我夢中で男にタックルし、妹を掴む手に噛みついた。
「っくそ! 痛って離せ! 離せよクソガキ!!」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
男から殴られても意地でも離れなかった。食いしばった口の中には鉄の味が広がっていた。自分の血なのか相手の血なのか判らない。ただ妹を助けたい一心で噛みつき、男は妹から手を離した。
「いい加減離れろっ!」
「うぼっ」
蹴り飛ばされた俺は春菜の横に転がった。殴られすぎて身体中が痛いし腹を蹴られて嘔吐した。それでも、妹を守るために立ち上がり背後にかばう。
「痛ってぇなクソが! 覚悟はできてるんだろうなクソガキがぁ!」
「や、やだ。おにいちゃんにげて」
「……ダメなにいちゃんで、ごめんな春菜。お前だけは守るから。だから逃げろ」
「やだぁ」
もはや気力だけで立っている俺に妹を守ることはできない。縋りつく春菜の手を解くことすらできない。
このまま目を閉じたらすぐに意識を失うだろう。この痛みから解放されるだろう。
でも。だけど。俺は――
「お前の兄ちゃんだから。妹は俺が守る!」
男が拳を振り上げ殴りかかろうとした時、知らない女性が男の背後から股間を蹴り上げた。
「はうっ!?」
「〇ね! この腐れ〇んぽ野郎!」
男は呻きながら股間を両手で押さえうずくまり気絶した。
「大丈夫かい!? 警察と救急車呼んだからもう大丈夫だよ。よく頑張ったね」
その女性の言葉に安堵した俺はすぐに意識を失った。
後から聞いた話によると、俺を追いかけた友達が、殴られている俺を見て近くを歩いていたお姉さんに助けを求めたらしい。急いで警察に連絡したお姉さんは俺がまずい状況だと判断して助けに入ったそうだ。ちなみに空手の有段者らしい。
俺が病院で目を覚ましたのは事件から三日後だった。歯は何本か折れたけど幸い乳歯だった為歯抜けにはならかった。他に怪我はあれど軽傷で済んだが、春菜には大泣きされ、両親にはしこたま怒られた。それでも最後には「よく妹を守った。偉いぞお兄ちゃん」と言ってくれた。
それから犯人の男は駆け付けた警察官にその場で逮捕されたそうだ。コートのポケットにナイフを所持していたため、一歩間違えば大惨事につながっていたかもしれないと警察の人にも怒られた。
この事件が原因で春菜は、俺を除く男性を酷く避けるようになった。
父親に関しては、犯人と背格好が似ていたのと、俺が殴られている時に助けてくれなかったから避けているそうだ。完全にとばっちりで申し訳ない。
これが俺の罪だ。
◆◆◆
ご飯を食べ終え、風呂から上がり、自分の部屋に戻ると電気が点いていてベッドが膨らんでいた。……まあいつも通りだ。
「ほら春菜。寝るなら自分の部屋に帰れよ」
「……」
布団を捲ろうとするもガッツリしがみついて離さない。
「はあ。俺の妹は可愛いなぁ」
布団がモゾモゾ動く。
「寝る前に可愛い妹の顔が見たいなぁ。お話ししたいなぁ」
さらにモゾモゾ動く。
「……好きだ(ボソッ)」
「えっ!?」
「かかったなバカめ!」
「キャッ♪」
布団から顔を出し力が緩んだところで布団を引っぺがす。
そして布団の中から現れたのは、ネグリジェ姿の妹だった。いや何でだよ。
「おまっ! 何つう格好してんだよ!?」
「お・兄・ちゃ・ん・の・えっち」
「違っ! いいから早く服を着ろ!」
慌てて持っていた布団を春菜に被せその姿を隠す。別に露出が多いわけでも、シースルーになっているわけでもないが、なぜか普段とは違う格好の妹にドキドキする。
深呼吸して落ち着こうとするも、自分の部屋なのに春菜の匂いがして逆効果だった。
「大丈夫だよお兄ちゃん。これ普通の寝間着なんだから恥ずかしがらなくてもいいよ?
それより、また髪乾かしてないでしょ? 私が乾かしてあげるからベッドの前に座って」
ベッドの上で座り、布団を被った状態でドライヤーを掲げている。可愛い。
「いやいや、だとしても「いいから早く! 風邪ひいちゃうよ」――はあ。わかったよ」
俺は諦めて春菜の前に座りベッドにもたれかかった。
機嫌よく鼻歌交じりに俺の髪を乾かしていく。正直なところこうして春菜に髪を触られるのは嫌いじゃない。
しばらくするとドライヤーを止め、櫛で髪を梳かし始めた。
されるがままでいると、不意に俺の額に手を伸ばしてきた。
「ごめんね。傷治らないんだよね。……痛くない?」
「別に気にしてないし、これは俺の責任だから。春菜のせいじゃない。全然痛くないし傷は男の勲章ってな」
普段は前髪で隠れているが、俺の額には昔の事件の傷跡が残っていた。この傷は戒めであり、そして妹を守ることができた証でもある。
「お兄ちゃんはさ、無茶しすぎなんだよ。私は昔みたいに弱くないよ? もうお兄ちゃんに守ってもらわなくても大丈夫だよ?」
春菜は傷跡をなでながら、普段通り喋っているつもりなんだろうが、若干声も指も震えている。
きっと兄離れしようとしているのだろう。俺を縛り付けないようにしようとしているのだろう。だけど――
「そんなの関係ない。確かに、お前は大きくなって、運動も勉強もできるようになった。それこそ俺より強いと思う」
「むう」
事件後、俺と春菜は、助けてくれたお姉さんが通う空手の道場に通っている。そこでも春菜は凄まじい才能を発揮していた。
「でも、それでも。俺はお前の兄貴なんだ。妹を守るためならなんだってできる。誰にも負けない。兄より優れた妹なんていないんだ。だから、これからも俺を頼れよ」
「い、いいの?」
「おう」
洟を啜る春菜の手を握った。
「これからもおにいちゃんに甘えるよ?」
「どんと来い」
そっと抱き着いてきた春菜の頭を撫でる。
「おにいちゃん結婚しよ?」
「それとこれとは話が違う」
「チッ」
いや、油断も隙もないな。
「これからも、私とずっと一緒にいてね?」
「春菜が将来のパートナーを見つけるまでは一緒にいてやる」
「じゃあ一生お兄ちゃんと暮らせるね」
「探す気ゼロかよ。まあそれも良い『コンコン』かも――ん? 『ガチャ』「何が良いんだい?」――親父!?」
ノックからドアを開けるまでが早すぎるし、タイミング的に話聞いてただろクソ親父。
この状況を簡単に整理すると、俺の部屋にネグリジェ姿の妹がいて、背後から抱きしめられていると。
ハハッ、家族会議かな?(絶望)
「もうお父さん。今良いところなんだから出て行って!」
いやマイシスターその言い方は誤解を招く。
「いやしかし、いくら法律上は結婚できるといっても従兄妹どうし「「は?」」だし――ん? あ、やべ」
今、聞き捨てならない事実が聞こえたんですが?
「親父。今、従兄妹って言ったか?」
「あ、あれー? 何か聞こえたか?」
「お父さん!」
「まあ頃合いか……春人は、俺の兄貴の子で、生まれて直ぐ夫婦そろって事故で亡くなったんだ。奇跡的に助かったお前を俺が引き取ったってわけだ。今まで黙っててすまなかった。もちろん誰が何と言おうがお前は俺達の家族だ」
いやいやいや。いきなりそんな事言われても実感湧かないし、今さら態度を変えることもできない。
「じゃ、じゃあ私とお兄ちゃんって、本当の兄妹じゃなく、従兄妹だから……四親等? え、結婚しよ?」
いや結論早いわ。
「はぁぁぁ!? お父さんは許さ――「お父さん嫌い!」――いい話じゃないか?」
手のひらクルックルじゃねーか! ドリルかよ。
でもまあ、最愛の妹様が言うのなら仕方ないか。
「春菜が成人を迎えるまでに好きな人ができなければそれも良いかもな」
「言質もらったからね?! 絶対だよ! 責任とってね? ……一応確認なんだけどさ、私の事好き?」
「もちろん――好きだよ」
俺達は本当の兄妹じゃなかったとしても、きっとこれからも変わらず、俺は春菜のお兄ちゃんとして、一人の男として守っていく。
兄より優れた妹などいない。(完)
最後の方、自分の文才が無く急ぎ足気味だったのと、話を広げることが難しかった。
初投稿の作品という事もあり、貴重な経験ができたと思います。
最後まで読んで少しでも良かったと思っていただけたら幸いです。