人形遊び
三題噺もどき―にひゃくなな。
三者三様の一軒家が並ぶ、とある住宅街。
平屋から二階建て、三階建て。形はどれも異なる。一つとして同じものはない。
だが、どれも同じような色味で揃えられ、不思議とバラつきが感じられなかった。
統一感はないが。
「 」
その住宅街の中心辺り。
この辺りでは、それなりにいい暮らしをしている人々が住んでいる。
その中心のなかでも、更に中。ここを中心にこの住宅街を作りでもしたのかと、思う程にきれいに中心にある。
1つの家。
「 、 、」
その家から、一つの楽しげな声が聞こえる。
家は二階建て。
豪華な玄関があり、庭もそれなりの広さがある。車は二台。―ここは確か、父、母、子一人の三人家族だったはずだ。両親一人一台というところだろう。
「……、」
いつもならば、三人の和気あいあいとした声が聞こえてくるのだが。
今日は一つ。
親は外出でもしているのだろうか。しかし、車は止まっている。歩いて出かけたのか。
「…、…、」
しかし玄関には、しっかりと鍵がかかっている。
靴も三人分置かれている。大きな父の靴に、控えめの母の靴。そして、小さな子供の靴。マジックテープで簡単に履いたりができるやつだ。
「――ぁ、」
玄関に入れば、目の前に扉がいくつか。リビングや客間への扉だろうか。奥に見えるのはトイレか。二階へと続く階段も見える。
ふわりと芳香剤の匂いが、嫌に鼻につく。独特な臭いだ。
「――ぇ。」
そのうちの、一つの扉の奥。
そこにはリビングが広がる。
広々としたものだ。天井は吹き抜けだろうか、かなり高い。
一台のテーブルに、四つの椅子。うち一つは子供用のものだ。
今、その机には誰も席についていない。
「すてきね、」
キッチンもその横にある。
綺麗に磨き上げられたものだ。ここの母はかなりの綺麗好きなようだ。いや父かもしれないが。
そこには、今は何もない。食べた後の食器なんかは、すでに棚の中に収納されているようだ。
「んーあなたは、」
広々としたリビングの。
ソファやテレビが置かれた場所。きっとここは家族団らんの場だろう。
そこに、一人の少女が座り込み、遊んでいた。
よく見れば、父と母はそこにいた。
なぜか床に寝転がっているが…疲れて寝でもしたのだろう。
「ここは、こうじゃないわね、」
少女はどうやら、人形遊びをしているようだ。
可愛らしい人の形をしたそれを片手に持ち。
もう片方の手には、どこから取り出したのか。
―似合わないほどに、刃先の大きな鋏を持っていた。裁断用の鋏だ。
「これはすきじゃない…」
少女は、人形の腕を、その大きな鋏の間に持ってきて。
バツリ―。
閉じる。
その断面からは、ぶわ、と綿がこぼれる。
―まるで、血液が噴き出すように。
「んーこれがいいわ!」
そう言って何かを探り出す。
それも、どこから持ってきたのか。全く、幼子の好奇心と行動力とは計り知れない。
それは、真っ白な包帯だった。
よくよく見れば、裁縫箱と救急箱をどこかから持ってきたようだ。
「こうして…」
その包帯を、ぐるぐると。人形に巻き始める。
あらかた巻いて満足したのか。次に手にしたのは、糸の通された針だ。
少女はそれを、人形に刺していく。きっと母がしているのを見て、まねているのだろう。
「~♪~♪」
しかし、少女の拙い指の動きでは、もちろんうまくいかない。
何度も、何度も。
針を刺すたび。
少女は、自身の指先までも刺している。
ぶすり。
ぶすり。
その度、小さな指先から。
ぷくりと血があふれ、包帯につく。
「――あれ?」
もちろん。
包帯は、少女の血で赤く染まる。
真白でなくなったそれは。
赤い水玉模様のように。
それに気づいた少女は、手に持つものを鋏に持ち替え。
「こうじゃない…」
また。
ぶつり。
鋏を閉じる。
それを何度も繰り返し。
少女は一人。
人形遊びをしている。
―両親?
彼らは寝ているだけだ。
永遠に。
どうやら、二人の仲はよろしくなかったみたいだ。
お題:鋏・包帯・指先