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夜は過ぎて、朝がやってきた。
荷物をまとめた英覚と茜は出発した。
朝日が山の向こうから上ってくる。
茜は前を向いていた。
英覚は後ろからそんな様子を眺めていた。
果たして生きて、またここに帰ってこられるだろうか。
「次はどこへ行くんですか?」
「隣町だ。そこでも妖怪が出たらしい」
彼らは山道を通り過ぎて、昼過ぎに隣町へ着いた。
そこは様々な商店が並び、活気のある町だった。
英覚は人々に妖怪の話を聞いた。
妖怪に殺されたという家があったが、そこはもう誰もいなくなっていた。
辺りはもうじき日が暮れようとしている。
「この近くの店で夕食を食べよう」
茜と二人で蕎麦屋に入り、蕎麦を食べた。
英覚は一瞬、自分の舌を疑った。
それほど、強烈なうまさを感じた。
「うまいな」
「ええ」
「もう死んでもいい」
「まだ仕事が残っています」
蕎麦を食べ終えると、彼らは家の中に入った。
外は日が沈み、夜になった。
庭に出て、呪文を唱えると、妖怪が現れた。
「お前か。新しい僧侶は?」
「そうだ」
妖怪が飛び掛かってくる。
英覚は数珠を握りしめた。
「無間熱光」
その瞬間、空から強い光が降り注ぎ、妖怪は消滅した。
茜は英覚の隣で事の成り行きを見ていた。
そして、地面にうずくまり、涙を流した。
「どうした?」
「もっと早く来てくれていたら」
茜の涙は地面に落ちて消えていく。
英覚はその場に立ち、空を見上げた。
たくさんの星が輝いている。
雲が浮かんでゆっくりと風に乗り流れていく。
丸い月が淡い光を放っていた。
英覚はしばらくの間、空を眺めていた。
自分の力が死んでいった人を救えたのかもしれない。
そう思うと、胸がひんやりと冷たくなった。
小さい頃、両親と過ごした日々が蘇ってくる。
目には涙が滲んだ。
茜はまだしゃがみ込んだままだった。
「今夜は宿に泊まろう」
英覚はそう言って、茜の手を取る。
茜は涙を拭いて立ち上がった。
「これから先、死ぬかもしれない人を助けないといけないですね」
茜はそう言って歩き出した。
英覚は後ろを付いて行く。
本当にこれでよかったんだろうか。
そんなことを考えながら、人のいない静まり返った夜道を歩いた。
茜はしばらくすると元気を取り戻したようだった。
英覚はそんな彼女の様子を見て安堵していた。
遠くには山が広がっていく。
旅をしながら、遥か先まで行かないといけない。
いったいいつになったら終わるのだろうか。
そんなことを考えながら、二人は宿へと歩いて行った。