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 英覚は日の出前に目覚めた。

 まとめた荷物を背負い、寺を出る。

 まだ外は暗い。

 空には月が浮かんでいた。

 目には涙が滲む。

 十年過ごしてきた寺が後ろには存在している。

 その中でたくさんのことがあった。

 それは自分の中では失われた時間と言っていいほど辛いものだった。

 寺の建物から離れていく。

 まずは昨日師匠から教えられた村へと向かう。

 道はずっと先まで続いている。

 ずいぶん長い間、目にしていなかった光景だった。

 歩いていると世界が少しだけ青色になっていく。

 朝日が遠くの山から上ってくるのを見た。

 英覚は道を歩き続けた。


 村に着いたのは昼前だった。

 人々は商店を開き、田んぼや畑で農作業をしている。

 袈裟を着た英覚のことを村人は眺めた。

「僧侶様ですか?」

 ふいに振り返ると、そこには四十歳くらい商人が立っていた。

「そうだ。妖怪に殺された家を探している」

「そうでしたか。それなら安心だ。私がその家まで案内します。妖怪が出てから、皆が安心して眠れないのです」

 商人は先に歩き、英覚は続いた。

 一軒の家がそこにあった。

 商人はそこで立ち止まった。

「ここです」

「わかった。ありがとう」

 商人は去っていき、英覚はドアを叩いた。

 中からは若い女性が出てきた。

「佐々木茜です」

 彼女の目は赤くなっていた。

「中村英覚です。あなたの両親が殺されたと聞きました」

「そうなんです。中へどうぞ」

 英覚は庭を歩き、家の中へと入った。

 もう両親の死体はない。

 やけに静かだ。

 蝉の鳴き声が響いている。

「その日は、どんな感じだったんですか?」

 英覚は座布団の上に座り、出された緑茶を飲んだ。

「夜のことでした。私は物音で目覚めました。隣の部屋で両親の叫び声が聞こえて、私はじっとしていました。妖怪の姿は見ていないですが、翌日両親は殺されていました」

 英覚は緑茶を飲みながら、その話を聞いた。

 茜の目には涙が滲んでいる。

「とりあえず、今夜、その妖怪をおびき出して見る。呼び寄せの呪文を使う。あなたは私の側にいなさない」

「わかりました。ありがとうございます」

 茜は深く頭を下げた。

 英覚の頭の中には妖怪のイメージが浮かんでいた。

 両親が殺されて、茜は無事で家も壊れていない。

 おそらく低級の妖怪の仕業だろうと思った。

 十年間の修行で、ほぼ全ての妖怪に対して、対応できる能力は身につけていた。

 茜は英覚の前に座り、泣いていた。

 きっと安心したのかもしれない。


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