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山奥の巨大な寺の中で、中村英覚は修行に励んでいた。
目の前には燃える木々があり、英覚は呪文を唱え続ける。
すると火の勢いが増し、木はさらに燃える。
物体を燃焼させる呪文を使っていた。
この巨大な寺では僧侶たちが魔術を習得するために、日々修行に励んでいる。
修行の内容は公にはされていないが、国からの支援は出ていた。
なぜ、こんな寺があるかと言えば、それは村に出る妖怪を倒すためだった。
妖怪は夜になると現れて、村の人々を食べてしまう。
そのため、僧侶たちは徹底的に、妖怪を倒すための魔術を叩き込まれる。
誰もが僧侶になれるわけではない。
厳しい修行に耐え、魔術を使うことができる生まれつきの才能が必要だった。
魔術を使えるのはおおよそ一万人に一人だ。
中村英覚はその中でも強力な魔術を使える天才として、皆から一目置かれていた。
燃焼の修行を終えると、彼は師匠の元を訪れる。
師匠は六十歳の全国で名を挙げた魔術を使う僧侶だった。
彼の名前はある地域では伝説にもなっている。
「どうだ。修行の様子は?」
座布団の上に座った師匠は英覚に尋ねる。
「順調に進んでいます。ほぼ全ての魔術を安定して使えるようになりました」
「お前がここに来たのは十五の時だったな。それから十年。そろそろ僧侶として、働く時が来たのだろう」
英覚はそう言われて、目に涙が滲むのを感じた。
長い修行生活を思い出す。
時には死にたいと思うほど辛いこともあった。
それでも人々を救うためと思いながら、歯を食いしばって耐えてきた。
「いよいよ、一人立ちですか?」
「明日の朝、太陽が昇る前にここを出て行きなさい」
英覚は頭を深く下げ、部屋を後にした。
長い廊下を歩いている間、全身から力が抜けていくのを感じた。
ふとほぼ同じ時期にこの寺に入ってきた市川大楽を見つけた。
「師匠と何を話したんだ?」
大楽は遠くの沈んでいく夕日を見つめながら、言った。
「明日の朝、ここを出て行くことになった」
「それは、おめでとう」
大楽は英覚の手を握った。
その手には熱がこもっている。
僧侶となった以上、命をかけて妖怪と闘わなければならない。
師匠のように名を残し、存命しているのはまれだった。
そのくらい妖怪というのは手ごわいものだった。
「一足、先に一人立ちすることになったよ」
英覚は名残惜しそうにそう言った。
「俺ももう少しで、ここを出られるように頑張るよ。その時になったらどこかで会おう。死ぬなよ」
大楽はそう言って、去っていった。