ごめん、さようなら、そして生たまご
「ごめん、さようなら」
その言葉が、心に貼り付く。
はじめてだった。
男性との、さようならの類いのものは。
さらっとは、していなかった。
はじめから、どろっとした関係だった。
冷蔵庫に向かう。
扉をあける。
卵を二個出す。
深めの皿を用意して、卵をテーブルに打ち付ける。
こんなものでは、モヤモヤする気持ちは晴れない。
殻の鋭い割れ口が、黄身に刺さり、うすい黄色が流れ出す。
小さな殻が、3かけらくらい一緒に入ってしまった。
ツイていない。
余計にモヤモヤが増えた。
でも、これからが本番だ。
殻を慎重に取り出し、フォークを手に取った。
そして、豪快にかき混ぜた。
落ち着く。
混ざっていく過程。
皿と箸のぶつかる音のハーモニー。
暴れるように、クチュクチュ鳴る卵たち。
そのすべてが、落ち着きに向かわせてくれた。
私は、まとわりつく未練にこう言った。
「ごめん、さようなら」