推理のまとめ
チーズハンバーグの注文が終わったところで、智子が思い出したように切り出す。
「ねえ、あれから連絡あった?」
「ううん」
ユカは首を振ってみせた。
小寺からの連絡は、五月中旬を最後にぷっつり途絶えていた。あれからすでに二カ月あまりが過ぎようとしている。
「なに考えてんのかしら? 今度会ったら、おもいきりけとばしてやる」
智子が鼻息を荒くしていきまく。
「忙しいのよ、きっと」
そうは言ってみたものの、モヤモヤした思いが胸に充満している。
仕事が忙しいだけなのか?
それとも小寺はとうに、自分のことなど忘れてしまったのか?
この二カ月。
ユカの胸の内では、不満と不安がくすぶっていたのだった。
そして今朝。
朝のニュースで、アップルの事件のことがひさびさに流れた。警察の最終的な発表を受けたものだ。
それよると……。
宮山佳助を殺害したのは石井茂。
動機は怨恨。
さらにその犯行の発覚を恐れ、妹の宮山メグミを殺害。そして自らは自責の念から自殺。
これから警察は被疑者死亡のまま、石井茂を二名の殺人容疑で検察庁に送るという。
最終的に警察が、石井茂の死因を自殺と断定したのは、現場が密室だったことにもよるが、智子の意見が小寺を通して捜査結果に大きく影響したことはいうまでもない。
ちなみに二つの死体の身元については、四月の下旬に、小寺からユカに報告が入っていた。DNA鑑定により宮山夫婦だったと。
さらに、小寺が教えてくれた新たな事実。
ひとつは手紙のこと。
メグミの居所で、石井茂が宮山佳助に宛てた手紙が見つかった。事務所を引き払ったとき、メグミが荷物といっしょに持ち帰ったようだ。
小寺はそう前置きしてから、手紙の内容についても話してくれた。
肖像画「りんごをむく女」を描いたのは、画廊のオーナー宮山佳助ではなく、アップルのマスター石井茂であった。十年前、それを無断で宮山佳助は、自分のものとして県美展に応募した。二年前ネットで偶然そのことを知った石井茂は、手紙の中で宮山佳助の行為を激しく責めている。
ふたつめは画廊の展示室にあった絵。
画廊「林檎」が閉鎖されたとき、石井茂によってすべて処分されていた。メグミに相談することなく売却し、その売上金をすべて着服していた。
これから警察は、二人の過去を徹底的に洗い直すことになるだろう。
最後にそう言って、小寺は電話を切った。
その結果は――。
五月中旬、小寺から再び連絡があった。
二人は若いころ、ともに画家を目指していた。その時期、メグミは宮山佳助と知り合っている。
その後、宮山佳助は画商に転身した。
一方の石井茂は放浪生活をしていたらしく、当時のことは警察もほとんど把握できなかった。
小寺からの連絡は、これを最後にプッツリと途絶えた。以後、まったくの音信不通である。
そして……。
それまで残っていたいくつかの疑問を、例のごとくメモに残しながら、ユカと智子は自分らなりに疑問を解き明かしていったのだった。
○喫茶店アップルが、画廊「林檎」のあとに入居したこと。
死体の発覚を恐れたことによる。
マリンの店舗は入居者が改装するため、隠した死体はいずれ発見される。隠し続けるには、そこに居座るしかない。
喫茶店を開く資金は、画廊にあった絵を処分することにより確保した。
○肖像画「リンゴをむく女」がアップルに残されていたこと。
マスターは画家になることに挫折はしても、画家としての誇りだけは持ち続けていた。ましてや「リンゴをむく女」は自分が描いたものである。
○三月初旬の頃に、アップルが三日間ほど店を閉めていたこと。
その三日間に、マスターはメグミの死体を壁の中に隠す作業をしていた。
○メグミがアップルに夫の死体があるのではないかと疑っていたこと。
メグミは兄の手紙で過去のことを知る。そこで兄を疑いアップルを訪れたのだが、店内に夫の死体があることを霊感で感じ取った。
こうして疑問が解けるほど……。
ユカの気持ちは晴れるどころか、かえってやるせなさがつのるばかりだった。




