三人の女
二人のいきなりの反応に、幸子が腰を引いてソファーに座り直す。
「どうしたの? 急に二人とも……」
「幸子おばさん、その人の名前、覚えてる?」
「ええ、もちろんよ」
「もしかして宮山メグミじゃない?」
「そう、そうだけど。でも、びっくりよ。ユカちゃん、どうして?」
幸子が口元に手を当て、身を乗り出したユカを見つめた。
「アップルの事件のこと、さっき話したでしょ。あの喫茶店、前は林檎っていう画廊だったの。でね、その画廊のオーナーが行方不明になったのが二年ぐらい前で、メグミさんは妹になるの」
「妹? 奥さんじゃないの」
幸子が首をかしげる。
「そっか!」
「そうなのよ」
ユカと智子は再び顔を見合わせた。
それから二人して、固まったように考えこんでしまった。
「ねえ、ちょっと休憩しない? ケーキがあるの、食べるでしょ」
幸子の声に、
「やったあー」
「いただきます」
二人は即座に顔を上げ、乙女のごとく目を輝かせたのだった。
ユカはハンドバッグからメモ帳を取り出し、前にメモをしたページを開いた。
「二人は同じ人なのかしら?」
「でしょうね。で、宮山の奥さんが妹だって名乗ったのは、なにか事情があってのことね」
「なら、モデルの女性はどう? その人の可能性もあるんじゃない」
「あるね、恋人なんだもの。妻、妹、恋人、宮山を取り巻く三人の女かあ」
智子がドラマ仕立てのように言う。
「前みたいにまとめてみるね」
ユカはペンを手にした。
メモ帳の新しいページを開き、わかったことを順に書き進める。
○三人の女性(同一人物の可能性あり)
・奥さん(宮山メグミ)
宮山佳助の行方を探し、三月のはじめ、占いの店に来ている。自分には霊感があると言った
・妹さん(宮山メグミ)
奥さんと同一人物? 事情があって、市役所では妹だと名乗る?
・絵のモデル(名前?)
絵が描かれたときの恋人で、現在の奥さん?(そうであれば、宮山メグミ)
ここまで書いたところで、
――うん?
ユカはなにかしら違和感を覚え、あわてて前に書いたページと見比べてみた。
するとやはり、それには肝心なことが抜け落ちていた。アップルのマスターだ。殺されたマスター抜きでは、今回の事件のことは進められない。
「ねえ、せっかく書いたんだけど、画廊とアップルが関係なかったら、この三人、事件とも関係なくならないかしら?」
「関係がなければね。でもあたしたち、それを知りたくて整理してるんだから」
「そうなのよね。じゃあ、そのことも書いとくね」
ユカは最後に書き足した。
※マスターを殺した可能性あり、と一行。
「それにこの三人、あたしの臭覚がクサイって」
智子が鼻をひくつかせる。
そんなところに、
「あら、なにかにおう?」
お盆にを手にもどってきた幸子が、智子を見て同じように鼻をヒクヒクさせた。
「ちがうんです」
智子はあわてて顔の前で手を振った。
「さっきの女性のこと、智子がね、怪しいニオイがするんだって」
「二人で推理してたんです」
「でも変ね。智子のその鼻、食べ物しかにおわないはずなのに」
ユカは笑ってやった。
「まあ、ユカちゃんったら。推理もいいけど、ちょっとひと休みしたら?」
笑顔の幸子が、紅茶とショートケーキを二人の前に並べる。
「わあ、おいしそう!」
「すみません、ケーキまで」
二人の探偵は食欲旺盛な女の子にもどって、さっそくケーキをつつき始めた。
脇目もふらず、ただひたすらにケーキを食べる。
そんな二人をほほえましく見つめ、幸子がテレビのリモコンスイッチを入れた。
そして、それはいきなりだった。
「ねえ、見て」
幸子がテレビを指さす。
その画面の上部には、臨時ニュースのテロップが流れていた。喫茶店アップルで、新たに女性の死体が発見されたと……。




