霊感のある女
異質な力を秘めた鈴部家の女たちの血。
幸子はそのことを知っているのだろうか?
知ってのうえで、幸子は占いに活用しているのだろうか?
ユカはそのことを問うた。
「見えるっていうの、幸子おばさんは遺伝だと思う?」
「でしょうね、たぶん」
幸子はあっさりと認めた。
「霊感、おばさんにはないけど。ユカちゃんには、そんなものが遺伝してたんだね」
「幸子おばさんは予知能力みたいなもの。あたしは霊感。だれからもらったんだろう?」
「おばさんは母からだと思うけど、ユカちゃんはだれからなんだろうね?」
「そんな人がご祖先様にいたのかも」
「そうかもね」
「それでね。ムズムズするのは市役所に勤め始めてからなの。それだって、ずっとホコリアレルギーだって思ってた。それが妙な声を聞いて、やっと霊感じゃないかって。あたしって、気づくのが遅いのよね」
「それも、それぞれみたいね。おばさんが意識し始めたのも、高校生になってからだったし。母は気づかないままだったんじゃないかしら」
「イヤでたまんないの。だって相手って……」
ユカは顔をしかめた。
同じ遺伝でも、自分と幸子とはずいぶんちがう。自分の場合、感じる相手は霊、俗に言うところの幽霊なのである。
「霊感って、相手が生身の人間じゃないものね」
「霊感のある人って、ほかにもいるのかな? そんな人、どうしてるんだろう?」
「三月のはじめのことだけど……」
幸子が思い出すように話し始める。
「女性のお客さんがお店に来たんだけど、はじめての方で三十代なかばだったかしら。でね、その人が自分は霊感が強いんだって。もちろん本人の言うことだから、ほんとのところはわからないけどね」
世間は広くて狭いものである。霊感を持つという女性が、おばの占いの店を訪れていた。
「やっぱり占いに来たの?」
「もちろんよ。ご主人が行方不明だそうで、今どこにいるのか占ってくれって」
「占いで、そんなことまでわかるんですか?」
智子がびっくりという顔で問う。
「同業者のなかには、人探し、失せ物探しをやってるところもあるのよ。でもね、わたしは本人のことしか占わないでしょ。だから、できないって断ったの。そしたらその人、なら自分を占ってくれって言うの」
「それで占ってあげたの?」
「ええ。でもね、本人が言ってたように霊感が強いせいかしら。占い始めたとたん、その人の思いがどんどん飛びこんできて、それもね、見たくないものばかりが。つまり、良くないことばかりなの。それでも見えたものは伝えなくちゃならないから、そのままを話してあげたの」
「その人、なんて?」
「だまって、うなずきながら聞いていたわ。思い当たるところがあったらしくてね。それで最後に、警察に相談したらって、忠告してあげたの」
「そんなに悪いことだったの?」
「そう、とっても不吉なこと。本人にとっては命にかかわるようなことだったの。それに人探し、警察のやることでしょ」
「行ったのかしら?」
「たぶん、行ってないんじゃないかな? 警察に相談できないから、ここに来たんだって」
「わかる気がする」
ユカはぽつりとつぶやいた。
自分も警察に話さなかった。霊感で声が聞こえたなんて、どうせ信じてもらえないだろうと。いや、霊感のある女――そう思われるのが怖くて……。
「そうよね、ユカもそうだったから」
智子がユカの気持ちに気づく。
「その人、どうなったのかしら?」
ユカは自分のことのように気になった。
「それっきりなの」
ため息をつくように言ってから、幸子はなにかを思い出したように続けた。
「わざわざ遠くの町から来たらしくて。でもね、以前はこの町で、ご主人とお店をしていたそうよ。そのお店、名前はリンゴって言ってたかな」
「リンゴ?」
「リンゴって!」
ユカと智子は同時に顔を見合わせていた。




