能力のちがい
ビールの酔いもあって、声をあげてふざけ合うユカと智子。
そんな二人のことをほほえましく見ていた幸子だったが、「ねえ、ユカちゃん、あなたのことも話していいかしら?」と、ユカに声をかけた。
「えっ?」
ユカが幸子に顔を向ける。
「ユカちゃんのことも見えたんだけど」
「あたしのことも?」
「つい見えてきたのよ。ユカちゃんのこと、やっぱり気になるからかしら?」
「で、それって男性のこと?」
「そう、将来の相手かもね」
「どうしよう、変な男かも?」
「ねえ、どんな男だっていいじゃない。教えてもらおうよ」
智子は好奇心のかたまりになっている。
「悪くないことよね」
「ええ、安心して」
「じゃあ、聞く」
「坂道のような場所で、ユカちゃんと若い男性が立ち話をしていたの。そこで出会ったみたいにね。そのことがなにを暗示しているのか、おばさんにはわからないけど」
「坂道で立ち話か……。せっかく出会ったのに、なんだかすぐにお別れみたい」
口に出してからふと思った。
その相手が小寺ではないかと……。
「でも悪いことじゃないから、ちっとも心配しなくていいのよ」
幸子が念を押す。
「その人、もしかしたら小寺君?」
智子も気がついたのか、ユカの腕をつついた。
「智子も、そう思った? あたしもなの」
「気になってるんだ、彼のこと」
「でも、別の男性かも?」
「ユカって、そんなにモテる?」
「モテモテだわよ。将棋同好会じゃ、みんなのアイドルなんだからね」
「あそこって、おじさんばかりじゃない。占いに出たの、若い男性なのよ。どう考えたって小寺君しかいないじゃない」
「ねえ、小寺君って?」
幸子がうれしそうに聞いた。
「ユカの中学のときの同級生。一週間前に再会したばかりで、まだホヤホヤの仲なんです」
智子がしゃしゃり出て教える。
小寺なのか、そうでないのか。このままでは気持ちの収まりがつかない。
ユカは聞いてみた。
「ねえ、幸子おばさん。その人のこと、ほかのことはわからない?」
「はっきりとはね。でも背の高い人。ユカちゃんよりずっと高かったから。それぐらいかな」
「やっぱり小寺君よ。彼って、高いじゃない」
智子がユカの腕をつかんでゆする。
「それだけじゃ決められないけど。でも、そういうことにしとくね」
ユカはうなずいてはみたものの、なんだか胸の内が釈然としない。ただ、小寺以外の男は想像がつかないし、それに考えたくもなかった。
「特別な能力があること、ほかの人に知られるの、幸子おばさんはイヤじゃない?」
「イヤじゃないわ。だってそんなこと思ったら、この仕事やっていけないでしょ。でもね、ちがった意味でなら、イヤだって思うことはあってよ」
幸子は上目づかいになって続けた。
「お客さんにもいろんな人がいてね、中には伝える力がとても強い人がいるの。そんなときは、見たくないものまで見えてきちゃってね」
そう言って、ひとつ大きな息を吐く。これまで見てきたイヤなものを吐き出すように……。
――そうなのよね。
ユカにはわかる気がした。
イヤな感覚。
それもやはり、自らが望んでいることではない。霊の方から一方的に伝えられてくるものなのだ。
ただ自分の場合、それはひたいへのムズムズとした感覚として。
幸子は映像まで見える。
それらが自分の意志に反するもの、そのことは同じであっても、幸子の方がより強く、より具体的なもののようである。




