幸子の能力
ホットプレートに熱が伝わり、肉と野菜がそろって悲鳴をあげ始める。
「お肉、そろそろ食べられるわよ」
幸子が鉄板の肉を裏返してみせ、二人に食べるよううながす。
「おいしそう」
「いただきます」
ユカと智子は焼けた肉をつまみ、タレの入った小皿に移し取った。
さっそく口に運ぶ。
「いっぱい食べてね」
空いたスペースに皿の肉を移しながら、笑顔の幸子がすすめる。
「ユカって大変なんだ。それでダンナになる人、やっぱり養子ってことに?」
「このままじゃね」
「その点、あたしは恵まれてるの。兄がいるから、いつでもお嫁に行ける」
「いいな、智子は」
「でも、もらってくれる相手がいない」
智子が首をすぼめて笑う。
「お見合いの人、その相手になるかもよ」
「それにはまず、今日の占いで吉と出なきゃあ」
「智子の言う相性ね」
「そう、まずは相手との相性。お見合いをするかどうかは、その人との相性で決めるの」
「あの話、そんなの関係なしに、あたしにはすすめておいてから。智子、ズルイよ」
「ごめん、ごめん。他人のことになるとプレッシャーないから」
「あの話って?」
幸子がユカを見る。
「お母さんがね、いい人がいるから会ってみないかって。もちろん断ったけど」
「お姉ちゃんらしいわね」
幸子は苦笑いをしてから、ユカを見ておもわぬことを口にした。
「ユカちゃんのことも占ってみようかな?」
「あたしはいい、お見合いなんてしないから」
ユカは首を強く振った。
「ねえ、ユカも占ってもらいなさいよ。お見合いすべしって出るかもよ」
智子はうれしそうである。
「でも、つい見えることもあるのよね。とくにユカちゃんのこと、気になるから」
幸子がおもわせぶりに言う。
――つい見えるって?
つい見えるとはどういったものなのだろう?
自分にある霊感とはどうちがうのだろう?
ユカは聞いてみた。
「つい見えるって?」
「そうねえ、話すとむずかしいんだけどね。頭に思い浮かぶようなものじゃなくて、とにかく見えるの。もちろん、いつでも見えるってわけじゃないのよ」
「それって、目に見えるの?」
「ううん、ここらあたりに映像として現れるの」
幸子はおでこをなでてみせた。
「それはね、突然のときもあるんだけど、ほとんどはお客さんを前にして、意識を集中したときにだけ現れるの。だから相手から伝わってくる、そう言った方がいいのかしら」
「映画みたいなもの?」
「映画ともちょっとちがってね、もっと細切れの断片かな。たいていは一枚の写真のようで、それもはっきり見えないことの方が多いのよ」
小皿に移したキャベツをハシでつつきながら、幸子が顔を曇らせて言い添える。
「ただね、見たくないものまで見えてしまうことがあるの。それも人それぞれで、色々なのよね」
幸子の見る映像は、相手から伝えられる念の波動のようなものが断片となって現れるらしい。相手から送られてくる力――念波の強弱により、それも見えたり見えなかったりと、それぞれで映像の結ばれ方がちがうのであろう。
ユカは確認するように聞いた。
「相手しだいってこと?」
「そうなの。悪い運勢を持ってる人ほどはっきり、そしてたくさん見えるの」
ユカの思ったとおりである。
――でも、あたしとちがう。
そうも思った。
同じ鈴部家の女であっても、自分と幸子には持つ能力に大きなちがいがある。
自分の場合。
相手は生身の人間ではなく、この世のものでない霊である。それに、幸子のように意識を集中せずとも伝わってくる。それも映像などではなく、ムズムズとする感覚として。
さらに声までも聞こえた。
智子はといえば、さっきから幸子の能力に感心しきりだった。
「でも、すごいわ」
「おかげさまで商売繁盛よ」
幸子がにっこりと笑ってみせる。




