メグミという女
ユカは残る疑問を口にした。
「あたしが聞いた女性の声も、あの絵とは関係なかったのかしら?」
「だろうね。それはそれで、ほかに理由があるんだろうけど」
「だったらここも? 絵が関係してる、そう思って調べたことだから」
ユカはメモの前半部分を指さした。
「絵のことだけを考えると、関係ないことになるんだけど。ただリンゴ、林檎、アップル、そこのところがね」
「偶然にしてはできすぎだもの」
「それで宮山佳助のこと、絵に関係ないと思ったんで詳しく調べてないんだ」
「じゃあ、居場所はわからないまま?」
「当時の住所に行ってみたんだけど、そこは事務所だったそうで、二年前に引き払われてたよ。管理人に確認したら、女性が訪れて解約したそうだ」
「妹さんね」
ユカはメモにあるメグミの文字を指さした。
「だろうな」
「妹さんのことも調べてみた?」
「もちろん。でも、ぜんぜんわからなかった。この町にはいないみたいで」
「どこか遠くに住んでて、そのときだけ来たってことよね」
「引き払ったのは画廊が閉まった時期でね。事務所の家賃も、そのとき未払いの分を清算してるんだ。それに部屋にあった荷物も全部な」
「お金も荷物も妹さんが……」
「そういうことで宮山の行方不明は、ほぼ確定的だと思うんだ。家賃の清算はともかく、荷物の片づけは本人がやるだろうからな」
「じゃあ妹さん、お兄さんの行方不明のこと、そのとき知っていたことにならない?」
「おそらくな。それに知ってたんで、やったことだと思うよ。そこらへん、居場所さえわかれば聞くことができるんだけど」
「引き払ったの、妹さん以外って考えられません?」
智子がなにかを思いついたように聞く。
「ほかの者が?」
「はい」
智子はうなずいてから、ユカに向き直った。
「ねえ、あのこと話したら?」
「ネットのことね」
ユカもピンときた。
「ネットに画廊の宮山のことが載ってるの。県美術協会のホームページなんだけど、県美展の受賞者一覧というのがあってね。十年ぐらい前、宮山はそこで最優秀賞を受賞してるの。でね、その作品のタイトルがリンゴをむく女。だから彼にとっては、すごく思い入れのある絵なんだと思うの」
ネットの掲載内容を教え、ついでにユカは自分の考えを話した。
それに智子が言い添える。
「絵のモデル、宮山の恋人だったんです」
「そんな絵が死体のそばに……」
「だから事務所を引き払ったの、その恋人だってことも考ええられるんです。絵のタイトルにもリンゴがついてるし」
「じゃあ、やっぱりあの絵も?」
迷いが出てきたのか、小寺は独り言のようにしゃべった。
と、そこへ。
注文したカツカレー二皿と明太子スパゲティが運ばれてきた。
小寺がスプーンを手にする。
「この続きは食べてからってことに」
間髪入れず、ユカと智子は同時にうなずいていたのだった。




