鈴部家の女たち
ひさしぶりに親子三人で夕飯をとる。
食べている間。
ユカはお見合い話のことは頭の隅に追いやり、鈴部家の女たちの血に流れている特殊な能力のことについて考えていた。
自分には霊感がある。
母親の美子にしてもそうだ。
実家に帰る前にヒマをもてあまし、時間つぶしにと大家のところの猫ムサシと遊んだのだが、そのことを母親はみごとに言い当てたのだ。
なら、祖母はどうだったのだろうか?
占い師をしている幸子おばさんも、なにかしら特殊な能力を持っているのだろうか?
食事が終わったところで、ユカはそのことについて母親に問いただしてみた。
「お母さんに聞きたいことがあるの。ちょっと変なことなんだけど」
「変なことって?」
「お母さんってね、自分に霊感があるって思ったことない?」
「ないわよ。そんなものが、お母さんにあるわけないじゃない」
「でも、カンは鋭いよね。あたしのデートの相手、みごとに言い当てたんだから」
「あれはあてずっぽの、たまたまよ。どうせあなたのデートの相手、猫ぐらいだろうと思ってね」
美子は笑い飛ばした。
「デートの相手って?」
康二がユカに顔を向ける。
「ムサシって名前の男。残念ながら、大家さんところの猫なんだけどね」
「猫か」
康二はつぶやいてから、ホッとしたように口元をゆるめた。
「なら、おばあちゃんはどうだった?」
「おばあちゃん、お母さんが高校生のときに亡くなったでしょ。だからよくわからないけど、霊感なんてなかったと思うわ」
美子は言い切ったあとで、思い出したように話を継いだ。
「ただね、子供心にも不思議に思ったことなら、ときどきあってよ」
「どんなこと?」
「たとえばね、だれだれが来そうだって、おばあちゃんがいきなり言うのよ。そしたら、ほんとにその人が来たりするの」
「それって予知能力なんじゃない?」
「そんなものだったのかしら。とにかく、そんなときはびっくりしたものよ」
「じゃあ、幸子おばさんは? ずっと占い師をしてるでしょ。おばあちゃんのそんなところ、受け継いでるってことない?」
「そうね、あるのかも。幸子の占い、よく当たるって評判だから」
「幸子おばさん、そのことに気づいてるのかしら?」
「どうだかね。あの子がそんなこと話してるの、聞いたことないしね」
祖母には予知能力があったようだ。
おばはよく当たる占い師だし、母親もカンが鋭いのは確かである。
――やっぱり血なんだ。
ユカはそう思った。
自分の持つ特殊な能力。
その能力は、鈴部家の女たちが代々受け継いできたもの。本人たちに自覚はないようだが……。
――なんで、あたしは霊感なの?
ついため息がもれる。
それぞれが持つ能力には、霊感や予知能力といった多少の個人差があるようだ。そんななかで自分は霊感という、まったくもってありがたくない能力を授かってしまったらしい。
「で、それがどうしたの?」
「ううん、なんでもない」
事件は新聞やテレビで報道されており、そのことは当然のように両親も知っている。
しかし、死体の発見者が自分だとは知らない。しかも霊感で気づいたなんて、そんなことを話して、ことさら心配をかけることもない。
ユカは話をはぐらかした。
「ちょっと聞いてみただけ。ねえ、ハンバーグもらっていい?」
「ああ、みんな持って帰れ」
康二が笑顔で言う。
ユカは大きめのタッパーに、ハンバーグをひとつ残らず詰めこんだのだった。




