第八話 アイツ
ゆいを追いかけたあきよしが着いた先は学校だった。
「ここは知っている」
なんとあきよしの母校であった。
そこで知り合った男性『たかつ』
アイツって・・・?
「アイツって?」
あきよしは誰なのかが気になっていた。
扉に鍵をかけ、あの重い空気、そしてたかつの目…。
「『ふじた』っていう男らしい。」
『ふじた』に『たかつ』…
ここの世界には何人いるんだ。
「知り合いなのか?」
たかつは首を横にふりながら
「いや、ここで出会った、俺は砂浜にいたんだが変な鏡を見つけてここに着いたんだ。」
「お前は?」
「俺は遊園地に、そして自分がいた草原に行こうとしたらここに着いたんだ。」
「ふじたはここで出会い、自分たちがなんでここにいるのかを一緒に探していたんだ。でも…、」
たかつはつらい表情で言葉を詰まらせた。
「もう少しだけ待ってはくれないか?今ふじたに会ったらアイツは必ず…死ぬ。」
「死ぬ?」
「ケガでもおっているのか?」
「いや、ケガはしていない。俺が一度気絶させるために負わせた傷ぐらいかな」
あきよしはイマイチ内容が掴めなかった。
「ケンカ?もしくは誰かいたのか?」
「…、」
「なんて説明すれば分かるのかな?
この世界ではむやみに話すのは危険だ。
少し考えさせてくれ。」
たかつはそう言ってしばし考え始めた。
(しかし気になるな…)
状況を把握できていないあきよしにとって歯がゆい事にはかわりない。
しかし、勝手に行って最悪な状況を作り出しても困る。
(たかつもここの事を《この世界》って言ってたな)
あきよしは少なからずたかつは自分よりここに長くいると感じとった。
「もう長くここにはいるのか?」
あきよしは知りたかった。
「あぁ、どのぐらいいるかは分からないが、一月はいるんじゃないかな。
ここはカレンダーとかないし、日にちをカウントしていないしな。」
たかつは少し恥ずかしそうに答えた。
敵意は全く感じられない。
最初の怒鳴りから少し構えていたが、もう緊張はなくなっていた。
「いつふじたに会えるんだ?」
あきよしはふじたに興味を持ち始めていた。
たぶん敵ではない。
なら三人で協力して…、
…
…
ダメだ。
またアレが脳裏に浮かんできた。
「血文字って知ってるか?」
あきよしは《血文字》を聞いて硬直した。
「…、」
「ああ。」
少し間をあけあきよしは返答した。
「アレがどうやって出来るかも知っているのか?」
「……ああ、」
心臓の鼓動が尋常ではないぐらい加速する。
「そうか…」
たかつは悲しい表情を浮かべながらうなずいた。
「ならふじたに会う資格があるな。」
「どういう事だ?まさか死んでるんじゃ…」
「俺が言えるのはここまでだ。
あとは直接確認してくれ。」
何かは分からない。
しかし、惨劇に近い事が起きるのはその話から目に見えている。
「もしかして、アレがトラウマか?」
たかつは確信をついてきた。
「お前はどうなんだ?あんなのを見たら誰でも…」
あきよしは隠そうとして反論した。
「ああ、俺はアレを見て発狂し、自我が保てなくなりそうな所までなってたよ。
そういう意味でもふじたに会わせたい。」
たかつは静かに答えてくれた。
いったいふじたに何が起きているんだろうか…。
「ふじたに会ってみるよ。」
あきよしはたかつの言葉で覚悟を決めた。
そしてたかつに連れられ扉の奥へと向かった。
紐で手首を縛られている男性が目の前にいる…。
「これは…?」
目の前にいるのがふじただとは直ぐに分かったが、この状況には全く理解が出来なかった。
「うぁぁぁ!!!」
突然ふじたが叫び出した。
手首が縛られているため、動けないが気が狂った様に叫んでいる。
「大丈…」
「近づくな!!」
あきよしが近寄ろうとした瞬間、たかつが叫んだ。
「なぜだ!あれだけ苦しそうにしているのに!」
「ダメだ。」
あきよしはたかつに怒りすら感じているのにも関わらず、たかつは冷静だった。
「せめて縄だけでも…」
「ダメだ。」
たかつの返答は同じだった。
しびれを切らしたあきよしは、たかつを無視し、ふじたに近寄り縄に手をかけた。
「縄をほどけばふじたは自殺するぞ!」
その時、たかつから思いがけない答えが返ってきた。
あきよしは手を止め、たかつの目を見た。
(たかつは何を考えているんだ?
ふじたはこんなにもツラそうなのに…、
ツライ?
たかつは死ぬと言っていた…
…
…
まさか…!)
「まさか…、血文字を書く前兆の…」
たかつは無言のままうなずいた。
覚えがある。
この狂った感じ。
そう、かみやも血文字を書く手前に今のふじたの様に発狂し、自我を保てなくなっていた。
そして…、
「俺は一度アレを見てトラウマになりそして2度目に気が狂いそうになり3度目
、ふじたの時に何とかして死なせない様にと思い気絶させて自分で死なないよう
に手首を縄で縛ったんだ。」
そうだったのか…
アレを2回も…
あきよしはようやくこの中で起きている事を把握した。
「どのくらいこの状態なんだ?」
「もう1週間は経つかな。
この世界はお腹が減らない…
だから縛っていても大丈夫。
だけど治す方法が見当たらない…、」
あきよしはたかつを見て相当、精神的な疲れがあると感じた。
2度の惨劇を目撃し、ふじただけは生きてはいるが、ほぼ見殺しの状態と変わらない。
かといってあきよしにもこの状況の打開策はない…。
二人は叫び声の中で立ち尽くした。
まいど!