第六話 葛藤
なんなんだこれは?
夢?なのか?
そんな非現実を目の当たりにしたあきよしは、
ただ、立ち尽くすしかなかった。
あれからどのぐらい経っただろうか、
かみやが自害してから気がつくとそこにあった無惨な姿がなくなっていた。
ただあの血文字だけが…
疲れを知らない世界。
今になって睡眠という活動がどれだけ体だけでなく心を癒してくれるのか…、
「気を失うか…」
横で目を閉じ小さな吐息をしているゆいの隣であきよしはつぶやいた。
それからしばらくただかみやの悲惨な映像をあきよしの思考とは別に
繰り返し繰り返し呪われように思い返していた。
「う…ん…」
ゆいが目を覚ました。
ゆいは静まり返った遊園地に一体何が起きたのか解らずにいた。
「大丈夫?」
「うん。けどなんで私は気を失ってるの?あれ?かみやさんは?」
(さっきの記憶がない?)
「………何か調べたい事があると言って先に他の場所へ行ってしまったよ。」
「そっか〜、あの人いい人だったのにね。」
「…」
あきよしは嘘をついた。
あの映像をこの少女に伝えなければならないのか、この子にはまだ早すぎる。
「これからどうするの?」
「そうだな、彼と別れる前に色々と情報をもらったんだ。まずはそれを整理するよ。」
そう、かみやはあれが起きる前に色々な情報を教えてくれた。
自分の命と引き換えに。
「まずは自分がいた場所に戻ろう!」
そう無駄にはしない。
疑問は腐るほどある。
しかし、自分の為に命を犠牲にした人の言霊を疑いたくはなかった。
《自分のいた場所に戻った方がいい。必ず情報がある。》
確かに何も知らずに前いた場所にいるのといないとでは全然違う。
(しかし、戻って何を…)
あきよしはそう思いすぐに頭を振った。
(まずは行ってみよう。)
まだ最初にいた場所の[懐かしい]という感覚にも答えが出ていない。
(それに…血文字も探さないと…)
あきよしは血文字を探したいが、それが見つかればあの光景が
フラッシュバックしてしまう可能性があり半ばトラウマになりかけていた。
あきよしは立ち上がり血文字が付いた床に向かって一礼し、鏡の場所に向かった。
「…」
「…さん」
「…な…さ…ん」
「なかやまさん!」
はっ、とゆいの声が聞こえてきた。
「ごめん、ぼーっとしてたよ。」
「なかやまさんなんか変だよ」
ゆいは少しムッとしながらも少しでも雰囲気を良くしようとしていた。
あきよしはまだ引きずっていた。
今度またあの光景を見たら自分は正常なままでいられるのか?
ゆいが見たら…、
それだけが頭の中でかき回っていた。
(まずは元の場所に…)
「なかやまさん!」
今度はゆいが有り余る声を振り絞り叫んだ。
「ど、どうした?」
「あれ!」
ゆいは指を指した。
その指の先には鏡が…
人がいる!
確かに人がいる、しかし、走って鏡の中に入ろうとしていた。
その瞬間、メリーゴーランドに気配があった事を思い出した。
「待て!待ってくれ!」
あきよしは大声でその人に呼び掛けた。
しかし、振り向きもせず鏡の中に吸い込まれる様に入って行った。
「なかやまさん行きましょ!」
あきよしは少し驚いた。
確かに急いで後を追うのがいいが、こんな状況なら普通、少しは構えるはずだ。
だが、ゆいの気迫にのまれただうなずき、鏡の前まで走って行った。
鏡…
相変わらず不気味な雰囲気を漂わせている。
「さぁ、行きましょ」ゆいは行く気だ。
「少し待ってくれ。まずアイツはどこにいたんだ?」
それを聞いて少し苛立つゆいが返答した。
「彼、多分この前話した『とがり』さんよ」
!!
「後ろ姿だったから曖昧だけど、分かるの。」
「あの人ならこの世界を知ってるんじゃないかしら?」
確かに、しかし、またあの光景があきよしの目の前に映し出された。
(またあんな事が…)あきよしはもうトラウマになっていた。
「でも…」
なぜ弱気になっているか解らないゆいは、苛立ちを隠せないでいた。
「とうしてそんなに弱気なの?
あの場所が知りたいんじゃないの!?
私は自分が誰なのか知りたい!」
そうだ。
俺も知りたい。
だけど…
「…、」
「もう私だけでも行く!どうしたのか分からないけどなかやまさん変だよ!」
そう言い放ち、ゆいは鏡の中に入って行った。
あきよしは少し考え腹を決めた。
(まずはゆいが心配だ。)
「ゆい待ってくれ!」
勇気を出し鏡の中へと入って行った。
「ここは…学…校?」
目に映ったのは、野原ではなく、中学校らしき建物が見えた。
あっ、え~と、サンキュ!