川下り。うれしかったこと
よき思い出。
あれは、船頭になって一年経たない頃だったか・・・毎日を必死でこなしていた日のこと。
今とは違い、たくさんの海外の観光のお客様が川下りにみえられていた。
船頭達は多くのお客様が来る週末となると下り3、4回は当たり前で体力勝負となる。
そんなある日のこと。
乗り合いの舟の中、ご両親と小さな女の子の3人、外国の家族のお客様が私の舟に乗船していただいた。
私は舟を出発させる。
たどたどしい竿つかいに、たどたどしいカタコトの英語のガイド・・・今もたいして変わらんけど(笑)。
記憶というのは曖昧で、必死にやっていたからというのを言い訳にさせていただくが、夏か秋頃だったか・・・。
時系列も定かではない。
私は汗をかき必死の操船とガイドの中、ちらりと船内状況に目をやる。
女の子が一生懸命に何かを描いている。
年のころは、4、5歳くらいか・・・。
ずうっと、熱心に。
やがて、船はおよそ一時間かけて目的地へと着いた。
下船のさいその3人の家族に写真撮影をお願いされ、私はグーポーズを見せ、まだたどたどしいスマイルをつくる。
軽く会釈をし、手を振り「バイバイ」する。
ふいに両親が私を呼び止める。
2人ににこにこと笑いながら、女の子を促す。
女の子は恥ずかしがりながら、おずおずと私の前に来て、そっと紙を手渡す。
小さなメモ帳の紙にあるのは、色とりどりのサインペンで描かれた船頭の私だった。
鳥肌がたち嬉しさがこみあげる。
「さんきゅー」
と、女の子に感謝を伝える。
こんなんじゃ足りないけど。
にっこり彼女は笑い返し、バイバイと手を振る。
見送った後、私は大事にその絵をしまうと、ぎゅっと握った。
その日、ことあるごとにその絵を眺めて、私は一人鼻の下を伸ばしていた。
この絵は今も私の宝物。
嬉しい嬉しい思い出である。
宝物です。