侮辱した罪
あの日、業火に焼かれ死んだ筈!!
崩れ落ちる教会。
逃げ惑う村人。
私はあの日の事を今でも鮮明に憶えてる!!
瞬時に周囲を探る。空間に相違は無い。幻術の可能性は無くなった。激情に駆られながらも努めて冷静に状況を把握、していたつもりだったが、
「えーっと、どうかしましたか?美しいお姉さん」
「その顔で!その声で!!浮ついた言葉を並べるなッ!!何者だ貴様ァッ!!」
ロイドはそんな言葉は決して使わない!!生まれ育った村を、自然を愛し!あの純朴で心根の優しかった少年が!!
「僕ですか?ロイド・グローディアです。初めまして」
「お、おい、お師様……」
「黙っておれ!!メリーゼ!!!おい!お主は何故ロイドの名を語る!!それにその名前!一体何のつもりだ!!」
目の前でロイドと語る男は、私の記憶の中にあるロイドの姿と全く変化がない。如何に長命種だとしてもそれはあり得ぬ。幻術の類いを最初疑ったが、あれは周囲の物にも影響が出るので見破るのは容易い。可能性として大きいのは自らの姿を変化させていると言う事だが、他者にここまで再現可能なものか?仮に出来たとして何故ロイドの姿に?
……!!?奴の仕業か!!
奴はこの頃のロイドの姿を知らない筈だが、恐らく私の記憶でも漁ったのだろう。此奴が何者かはわからぬが、この姿で私の前に現れたのは私が生きている事に気付き、確認の為揺さぶりをかけて来たのだとしたら辻褄が合う!!
「だぁーーー!待て待て待てお師様!何いきなり切れてんだかしらねぇーが場所変えるぞ!キャサリーン!訓練所開けてこい!!ほらっ!お師様行くぞ!!悪いがあんたも来てくれるか?」
自称ロイドは人もどきについて行く。こちらを見てくるが困った時に眉がハの字になる所もそっくりだ。その仕草を見るだけで強烈に殺意が込み上げてくる。渋々ながら私もメリーゼについて行くが決して奴から目を離さない。
私の親友の姿を真似て侮辱した罪、決して許さぬぞっ!!
メリーゼ達の向かった先は位置からして冒険者ギルドの裏手にある広い空間だった。
「お師匠、一体どうしたんだ?」
メリーゼの言葉を無視し目の前の男に再度問う。
「貴様は何者だ!!何の用があってここに来た!!」
「え〜、自己紹介はしたよね?何の用ってエルムに会いに来たんだよ。あっ、エルムって言うのはね……」
此奴、主人殿と同じ姓を名乗った。
「エルムとはエルム・グローディアの事か」
「お姉さん、エルムの事を知ってるの!?」
何と言う事だ!主人殿との事まで嗅ぎつけられたとは……だが不幸中の幸いと言うべきか。主人殿はここにはいない。主人殿が害される可能性は低いと見ていいだろう。
「貴様は私の問いにだけに答えるのだ!!」
冷静に、冷静にと言い聞かせるもその声、その仕草を見るたびにあの日の光景が浮かび上がる。
「貴様は何故その姿をしておるッ!!その姿は私の親友のものだッ!!」
「……へ?」
「惚けるのも大概にしろッ!!今すぐその化けの皮を剥がしてやるッ!!」
奴の手先なら手加減は無用だろう。
「ばっ、やめろ!お師様!!」
飛び込み一閃!零距離からの【瞬穿】!!!
「もしかして……クロエ?」
どうしようもなく懐かしいその声で私の名前を呼ばれ思わず手を止めてしまった。
「クロエ……クロエだよね!!」
私の記憶を読めるなら名前を知っていてもおかしくは無い。
「僕だよ!ロイドだ!」
やめろ!
「あの時何処に行ってたの!」
その声で、
「みんな心配してたんだよ!」
その姿で、
「でもクロエ、無事で良かったよ」
「私の名を呼ぶなぁぁぁ!!!」
頭上で止まっていた拳を振り下ろす。
ガッ!!
「そこまでよクルシュちゃん。少し落ち着きましょ?」
人もどきが私の拳を受け止めていた。次いでメリーゼが私を羽交締めにし後ろに引きずって行く。
「何考えてんだ!!お師様らしくねぇーぞ!!」
「メリーゼさん。ちょっと待ってもらえるかな?」
「ロイドさん?」
なんだ?二人は知り合いなのか?
「多分僕の事を偽物だと疑っただけだと思うんだ。そうだよね?クロエ」
「ああ」
未だ疑ってはいるがな。だが人もどきのお陰で幾らか頭が冷えた。
「死んだと思った人間があの頃のままで出てきたらそりゃぁ疑いもするよね。でもね、それは僕も同じだよ。死んだと思っていたクロエが生きていた。それも仮に生きていたとしてもとっくに寿命で死んでいる筈なのにさ。聞かせてくれる?君に何があったのか?」
「まずは貴様が先に話せ。私は確かに見たのだ。襲いかかる魔物の群れ、それに飲み込まれた村。戦いの余波で教会は燃え崩れ、残ったのは焼け落ちた家屋の残骸のみだった」
「うーん、まだ疑われている様だね」
そう言って懐に手を突っ込むと何かを取り出した。
「クロエ、これを覚えているかい?」
あれは!
「それで、これをね」
き、消えただとっ!!




