心当たり
「ふう」
私は一息ついた。半分程精査が終わったが、いかんせん量が量だ。流石にこたえる。
しかし私がスライムだった時一体何があったのだ?自我無く膨大な時を過ごしたのはわかるが何があったのかはさっぱり思い出せない。朧げながらここ数日のみ覚えているだけだ。スライムは記憶するという事が出来ないのだろうか。
改めてメモを見る。習得した覚えの無いスキルを書き出したものだ。
防御系のスキルは耐性までで留めておいた筈なのだが斬撃以外ほぼ全てが無効にまで昇華していた。ヘビーコングを仕留めきれなかった時に違和感を感じたがこれで合点がいった。主人殿の打撃スキルが威力を発揮できなかった事も含めてな。
しかしこれらをどうするべきか。主人殿の生存を第一に考えるなら、これらを主人殿が使えるようにするべきだろう。
だが攻撃手段が斬撃系と魔法のみで極々限定されてしまうのは如何なものか。せめて状態異常無効を覚えさせておきたい。クリスには覚えるスキルは本人に任せたほうが良いと言われておるのだがな。
幸いだったのが常時発動型と言われている無効スキルがリセットされている点だ。恐らくだが【異体同心】を使用した事でそうなったのであろう。
そうなると一つ疑問が残る。主人殿と出会ってから私は何処で【衝撃無効】を発動したのか?恐らく何処かで危機を感じたはず……!!?そう言えばあの時、人もどきと初めて出会った時に身構えた覚えがある!!
おのれ人もどきめぇ!!
おっと、主人殿を確認しなければ。スライムの時に覚えた【鑑定】の影響か、はたまたまだ出てきていない他のスキルの影響かは、はっきりと判らぬが【天眼】を維持するのが難しい。他に気を取られると直ぐに切れてしまうのだ。
うむ、主人殿は……リタと共に修練中のようだ。他のスライム共も問題ない様だな。しかし連絡手段がないのはもどかしい。恐らく【突き】の修練をしているらしいが今の主人殿では全く意味をなさない。こっそりと攻撃スキルを使ってみるか。いや、それで使用した事による弊害、例えばその意味を深読みされたとしてそれを訂正する術がない。
惜しむらくは二人に指導するものがいないという事だ。幸にして二人とも修練に励んではいるがそれもいつまで続くか。同じ動作の繰り返しは目標が明確であればこそ続けられるがそうは言ってもいつか必ず飽きが来る。その前に好奇心で場を離れてはしまいか、ただただ不安が募る。今二人が迷宮の森へと向かってしまえば待つのは明確な死のみ。
コンコン
ようやく全てのスキルを見終わったとほぼ同時に扉を叩く音がした。
「誰だ」
「お師様、あたしだ。開けてくれ」
鍵を開ける。
「向こうはもう良いのか?」
「ああ、いつもの森に戻ったからな。念の為何人かうちの奴らをつけたし、クリスもいるから問題ねぇだろ。んで、お師様、分かったのか?」
スキルを調べた結果を伝える。
「やっぱりな」
「一応人もどきに『暴食家』と『錬金術師』の紹介を頼んでいるのだが」
「あ〜、なるほどな。でも、あまり期待しない方がいいぜ。今と昔じゃ同じ天職でも、出来る事に天と地ほどの差があるからな」
「お主の知り合いにいないのか?」
「……心当たりが一人」
「その者は今何処に?」
「ここから西に十日程、辺境の村だ」
メリーゼの話によると細々と開拓を続けている者達がおり、その一団の中にいるとの事だった。
どの道ここから迷宮の森に向かうにはそこを通るらしく、
「あたしからの紹介状があれば会えるだろう」
との事だったがメリーゼ曰く、かなり癖のある人物らしく、協力を取り付けるのは難しいかも知れないとの事だった。
だが腕は確かの様でギルドカードを始め、ここにある鑑定の魔道具とやらもその者の作らしい。
「もうスキルは調べ終わったんだろ?紹介状書くから一度あたしの部屋まで来てもらえるか?」
メリーゼと共にギルド長室へと移動する。
「ほら」
ささっと手紙を認め手渡してきた。クリスと違い、中々文字の読み書きが出来なかったあのちび助が随分成長したものだ。左手で受け取り空いた右手、思わず頭に手が伸びる。
「んなっ、ちょっ!!?急に何しやがんだ!!」
「なに、少し見ない間に成長したと思ってな」
ばしっ、と手を払いのけるものの髪と同じくらい真っ赤になったメリーゼ。
「少し見ない間ってお師様!最後に会ってから、どれくらい経ったと思ってんだ!?」
「うん?どれ位だ?」
「四百年だ!!」
「なっ!!」
人もどきより国が変わったと聞いた時から、恐らく数十年単位で時が流れているとは思ってはいたがまさか四百年とは……
「もう行くのか?」
「ああ、一刻も早く主人の元へと戻りたいのでな。ああ、それからメリーゼよ……」
と、その先の言葉を言いかけた時だった。
「エルムは無事なんですか!!」
ん?主人殿と同じ名前だ。この声はギルドの受付の方からだ。
「ごめんなさい。ご家族といえ詳細ははなせないのよ」
見ると人もどきと話をしているのは主人殿と同じ年頃の少年。その者の顔が見えたと同時に怒りが込み上げて来た。
「あっ」
「離れろッ!!人もどきッ!!!」
ロイドッ!!!




