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スライムブリーダー?実は最強の職業でした  作者: 谷里 零


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閑話 志半ばで敗れた者達

「親方」


 後ろを振り返ると儂の唯一の弟子がいた。


「本当に行っちまうんですか」


 煤に塗れた鍛治工房を見てそう呟く。いつも煌々と燃えていた炉の中も今はすっかり冷えていた。

 いつの頃だったか、弟子にしてくれと押しかけて来てから大分経った。あの頃はまだヒョロっこかったこいつも随分逞しくなったもんだ。

 壁に掛けてある仕上げ前の包丁を手に取る。弟子が打った物だ。


「立派な物作れるようになったじゃねぇか。これくらいのもん作れるならどこに行っても上手くやれる筈だ」


 そう言って、懐にしまってあった一本のナイフを取り出す。


「こいつぁ餞別がわりだ」


 今まで弟子なんぞ取った事はなかった。いや、いたのはいたんだが、どいつもこいつも直ぐに根を上げやがる。残ったのはこいつだけだった。これは免許皆伝の証みたいなもんだ。


「これは……!!?」


 気が付いたみてぇだな。ミスリル、オリハルコンは勿論、古龍の牙やその他希少な魔物素材なんか混ぜてある。儂が判ったのはそこまで。


「こんな貴重な物、受け取れません!!」


 返そうとして来やがったから無理矢理胸に押し付ける。


「いつかそれを超える物を拵えてみろ」


 若い時骨董市で見つけたナイフ。捨て値で売っていたのを見つけた時は驚いたが儂は運命だと思った。

 周りは儂の事を『伝説の鍛治師』だの『神匠』だの勝手に言っているが儂はただ手前勝手に鍛治を続けてただけ。これを超える物を作る為。言うならばその目標さえありゃ誰でも儂の様になれるって事だ。

 だが、いつしか目標を見失っていた。適当なもん作って金が入ってうまい酒のんでちやほやされて。

 そんな時こいつが現れやがった。どうせ直ぐに辞めるだろうとたかを括ってたがこいつには根性があった。教えれば直ぐにモノにしちまう。人が何十年と掛けて培った技術をあっという間にだ。まさに天才って奴だな。後十年も槌を振りゃ今の儂に追い付くだろう。天才の癖に努力家ときちゃたまったもんじゃねぇ。

 だからこそ儂は旅に出る。まだ見ぬ素材を求めて、更に腕を磨く為に。弟子より先にこれを超える物を打つ為に。そして、天才がいつまでも凡夫な儂の背中を追える様に。


 ……それが師匠の矜持ってもんだろ?


 道具一式詰め込んだ背負い袋に、身一つ。


 ガキの様にいつまでもベソをかいてる弟子に別れを告げて旅に出る。


 目指すは竜の屏風。取り敢えず百年、篭ってみるか。




 ーーーーーーーーーーーーーー




「また失敗だ……」


 出来上がった椅子を見て呟く。


 遥か昔、母に連れられ一度だけ訪れた事のある深い深い森の中にある生まれ故郷。そこにあった、なんの変哲もない何処にでもある様な家具。私は滞在中すっかりその家具達の虜になってしまった。


 長時間座っていても腰が痛くならない椅子。

 適度な集中力を保ってくれる机。

 安眠快眠をもたらしてくれるベッド。


 使い手の体と心を癒す。正にこれこそが家具の本質。そして同時にこうも思ったのだ。


『私も作ってみたい』


 帰国後直ぐに仕事を辞めた。天職を得る為に数多の努力をして来たが今更惜しくも無い。故郷でその家具を作った物に教えを乞おうと思ったが、流れの者だったらしく所在を掴む事が出来なかった。


 それからはあっという間だった。天職も『木細工士』から始まり目標だった『家具職人』に。それでも飽き足らず複数のスキルを得て『建築士』。遂には木材を扱う最上位天職『木工職人』にまで上り詰めた。

 私の作品を購入した者達は口々に礼の言葉を述べてくるがその言葉を聞くたびに申し訳ない気持ちに襲われる。何故なら私自身が満足出来なかったのだ。

 本来、満足のいく出来では無い物を売り物にするなど職人として恥ずべき行為なのだが私とて霞を食って生きている訳ではない。家具を作り続ける為と割り切ってはいるものの名声を得れば得るほど虚しくなるばかり。


 すり減って行く私の心の唯一の支えはこの工房の隅に置かれた一脚の椅子。故郷で頼みに頼みに頼み込んで譲ってもらったあの部屋にあった椅子だ。


 今なら分かる。挑むべき頂きの何と高い事か。


 ……一度、原点に戻ってみるべきか。幸にして金には困っていない。それに私がいなくても恐らく店はまわるだろう。


 そう新たに決意し工房の扉をそっと閉める。


 目指すは故郷アデルローデン。深い森と霧に囲まれたエルフの集落。


 故郷へ向かう私の後を数名の弟子達がこっそりついて来てたのは随分後に知った。



 ーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ、はぁ、はぁ、」


 美しい花々が咲き誇っていたこの辺りも、みるも無惨な光景になってしまいました。辺りには数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程の夥しい数の魔物の死骸。飛び散る血肉。鼻につく死臭。まぁ、すべて私がやった事なのですが。


「ぐっ、がはっ」


 喉の奥から迫り上がる大量の血を吐き出す。

 しかし参りました。秘匿任務故、誰にも話さず来てしまったので間違いなく助けが来る事はないでしょう。胸を触るとポッカリと大きな穴が開いています。持って数分と言う所でしょうか。まぁ、助けが来たところでどうにもならないでしょうがね。

 私をどうしてもここで潰したかったのでしょうね。まさか四方の迷宮を同時に強制スタンビードを起こした上、私に向かう様、仕向ける徹底ぶり。相手もなりふり構っていられなくなったと言うことでしょうか?

 何とか情報を届けたいのですが最悪な事に、私にはその術がありません。困りました。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 段々だ思考が定まらなくなって来ました。思い出されるのは主人と、その仲間達との日々。

 辛い事もありました。

 悲しい事もありました。

 でも私には毎日が輝いて見えていたのです。

 仲間……いえ、あれが家族、なのでしょうね。


 既に心臓は止まっています。


 間も無くですね。


 直接お暇申し上げることができず誠に申し訳御座いません。


 先にあの世で待っております。



『シュティン……グレイ………様………』


























PVが一万を超えました。

文字数も十万越えたので閑話投稿。


明日の投稿から本筋に戻します。


お付き合いいただいてありがとうございます!

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