パスン
ジルさんは更に言葉を続ける。
「エルム様のお陰である程度生前の力を取り戻す事が出来ました」
そのまま少し後ろに下がり後ろを向くと腰を落とす。そして、
ゴウッ!
音と共に振り抜かれた拳の先にある木々が、その拳圧により大きく揺れ枝葉が舞った。
「これが【突き】です。因みに今覚えました」
その言葉に戸惑う。今覚えた?
「とりあえず皆様には今と同じ事を出来る様になっていただきます。手始めに、先程と同じように打ち込んでみてください」
すっと胸元に上げられた手。そこに打ち込めって事かな?
「わ、わたしにも出来るの?ジルさんと同じ事が」
「出来ます。その為にまず現時点での皆様のお力を把握したいと存じます。皆様の力量を正しく把握するのも執事としての務めで御座います」
「エルム君、わたしからでいい?」
リタがそう言ってジルさんの前で構える。
「いつでもどうぞ」
「はっ!」
気合いと共に拳を繰り出す。
パンッ!
「いい感じですね。これならスキルに昇華するのも時間の問題でしょう。見取り稽古の成果とでも言いましょうか。ただ一つだけ物申させていただくとすれば、リタ様は今、拳を押し出す格好となっております。押し出すのでは無く突き出す。そこを意識してやってみて下さい。感覚的な物言いになってしまい申し訳御座いませんが」
「押し出すのではなく突き出すように……やってみます!」
拳を握りしめそう宣言するリタ。
「では、エルム様どうぞ」
「はい!いきます!」
胸の前に上げられた手のひら目掛けて【突き】を使う。
パスン
「……申し訳御座いませんがもう一度お願いしても?」
「えっ?あ、はい!」
もう一度【突き】を放つ。
パスン
「……もう一度」
更にもう一度【突き】を放った。
パスン
「エルム様、本気でおやりになっていますか?」
「ほ、本気も本気だよ!なんで!?」
「まるで威力が感じられないのです。手袋に拳が当たった感触はあるのですが……」
感触はあっても威力が感じられない?……あっ、もしかして!?
僕はリタの方を向いて手を胸の高さに上げる。
「リタ、ここに打ってみて」
「えっ?なんで?」
「いいから」
戸惑いながらも構えるリタ。そして、
……
「えっ!何今の!」
そう言って続け様に右、左と繰り返し突き放ってくる。
「エルム様、これはどう言った事でしょう?」
後ろで見ていたジルさんが聞いてきた。でも説明するより体感してもらった方がいい筈だ。
「どうぞ」
手を上げる。
「いえ。主人に危害を与えるなど執事としてあるまじき行為。それ以前に私達従魔は主人に危害は加えられませんので」
「大丈夫。打撃では僕、怪我しないから。それに主人の力量をきちんと把握するのは執事としての務めじゃないの?」
「……では」
そう言ってジルさんは深く深く腰を落とす。えっ、いや、ちょっと待って。なんでそんなに本気で、えっ、ちょっ!!
ボッ!!
空気を突き破る様にして放たれた拳。一瞬の後、暴力的な風圧が襲いかかる。
僕の手にはジルさんの握り込まれた拳。
「この手応え……【物理攻撃無効】、【衝撃吸収】?いや【衝撃無効】ですか?」
構えを解き、そう尋ねるジルさん。僕は頷く。クルシュは最初の二つのどちらかと言っていたけど、ギルドカードには【衝撃無効】とあった。
クルシュが大木をへし折った一撃すら無効にしてしまったのだ。どれくらいまでなら衝撃を無効に出来るのかはわからないけど、その逆もあり得るわけで。
「成る程。自身の攻撃も無効にしてしまうと。ですが厄介ですね」
「エルム君のこれも先生のスキルなの?」
リタはペチペチ遠慮なく叩きながら聞いてきた。
「多分そうなんだと思う。クルシュ自身、把握しきれて無いみたいだったけど」
「??先生も使えるなら、なんで先生は普通にスキルを使えたの?」
そうなのだ。このスキルは自分から放つ攻撃の衝撃も無効化してしまうみたいなのに、本来の使い手のクルシュは問題なく打撃系のスキルを使えてしまっていた。
「恐らくは……いえ、何でもありません。エルム様は少し色々と試してみないことには何とも言えませんが恐らくは既に【突き】は取得しているとみて問題ないでしょう。では、リタ様はこのまま続けて下さい。エルム様、少しお話が。場所を変えましょう」
ジルさんに連れてこられたのは拠点の裏にいつの間にか出来ていた広場。今もせっせと増築が進められていた。どこまで大きくなるんだろう……
「ここら辺でよろしいでしょう」
「それで、どうしたの?」
ジルさんは姿勢を正し一言。
「大変申し訳難いのですが、このままでは基礎スキルの習得は難しいと思われます」
カーンカーンと金槌の音が響き渡る。




