ディメンションリッパー
「お師様、この階層は密林と沼地の混合なのか?」
メリーゼさんのその質問に対してクルシュの代わりに僕が答える。
「いえ、この階層に来た階段を南とするとここから丁度西の方に山岳地帯があります」
「て事はここが最下層か。こんなにちっこいダンジョンは初めてだぜ」
「うむ、確かに。何者かが刺激したせいで迷宮に不具合でも出たのであろう。それ、【付与】に【毒無効】」
その声に僕も自分で【付与】を施す。
地図上でぼやけている境界線をまたぐと空気が一変した。
霧で覆われているけどこれは猛毒らしい。【状況把握】が教えてくれた。
「お師様、ちゃっちゃと行こうぜ」
「任せろ」
ジャングルの時みたいに道を作るのかと思ってリタと二人身構える。
「【空間固定】【着色】」
ズワァァァァっと地面のほんの少し上に、一直線に真っ赤で平な道が出来た。
とん
「行くぞ、と私達はともかく小娘には視界が悪いな。それ、【気流操作】【凝縮】【凝固】」
グォーっと空気が渦巻き一箇所に集まる。それは紫色の塊。僕より大きな四角い塊が地面に落ちた。
ズブズブと沈む塊。
視界が晴れて見渡すと紫色のおどろおどろしい沼地が現れた。ぶくぶくと泡立ちあれが毒の発生源だとわかる。
「凄い所だね。ところでクルシュ、ジャングルでやったみたいなのを使わなかったのはなんで?」
「地図で沼の中を見よ。多く生き物がいるであろう?その生き物き達がもつ魔力に邪魔されて出来ぬのだ。数が少なければ訳もないがな」
スキル一つとっても条件によって出来る事と出来ない事があるんだ。僕も後で色々試してみよう。
「これで問題ないな。先を急ぐぞ。終わりは近い」
クルシュが作った赤い道の上に乗る。トントンと爪先で確かめてみたけど硬くしっかりとしている。
紫色の沼地の上を走り抜ける。少し走った所でリタが口を開いた。
「あの、エルム君」
「うん?」
「クルシュさんって……何者なの?」
「クルシュは僕の相棒だよ」
「でも、ギルド長はお師様って呼んでるよね?お師匠様って事だよね?」
「うん。メリーゼさんの育ての親みたいなものだって聞いてるよ」
「人類最強の一角のお師匠様の相棒……エルム君って、もしかして凄い人?」
「僕は全然。凄いのはクルシュだよ。凄すぎて全然頭がついていかないって言うかなんていうか」
リタは勢いよく首を縦に振る。
「わかる!あんな大きな牛の魔物を一発で仕留めたり雪山にいきなり階段作ったのも驚いたけど、ジャングルが割れて道が出来たのはビックリした!ビックリを通り越して、あぁ、ジャングルって割れるんだって思っちゃったもん」
「今は空中に道作っちゃったしね」
「クルシュさんって御伽噺に出てくる【スキルマスター】みたい!」
どこかで聞いた事があるような……
「リタも頑張ればなれるよ!」
「うん……そう思ってたんだけどね。でも、わたしの天職はハズレもハズレ、大ハズレだから……」
「おい!ハズレだろうがなんだろうが関係ねぇぞ。天職によっての向き不向きは出て来ちまうが、要はお前がどれだけ努力出来るかどうかだ」
「うむ。流石人類最強の一角の言葉、重みが違う」
「やめてくれっ!!」
笑って言ったクルシュにメリーゼさんが真っ赤になって反抗する。
「小娘よ。天職なぞ飾り、固有スキルはおまけとでも思えば良い。差はあれどスキルは誰でも得られるものだ。それだけは忘れてはならぬぞ」
「ちなみに、あたしもお師様もハズレだぞ」
「なに!今の世では私の天職はハズレなのか!?」
「お師様のは昔もハズレだろう……」
「私は私が望んで手に入れた天職なのだ!決してハズレではない!!そう!私の、す……メリーゼ」
「お前ら!止まれ!!」
その瞬間、【危険予知】と【索敵】が反応した。地図上に大きく真っ赤な点が現れたのだ。
「ダンジョンマスターだ!」
禍々しい靄が現れ急速に形作っていく。
「ふむ、やはり素通りとはいかぬか」
ぼろぼろのローブを纏い両手に巨大な鎌。下半身のあるはずの場所からは夥しい数の触手が蠢いている。
ヘビーコングもレッドバイソンも僕にとっては恐ろしい存在だった。でもこれはそれ以上、体の奥から込み上げてくる。
これが本当の恐怖か。
「おいおいおいおい、このダンジョンおかしいんじゃねぇかぁ!?なんでディメンションリッパーなんか出やがるんだ!」
クルシュが僕達の前に庇う様に立つ。
「ふむ、せいぜいエビルポイズン辺りかと思ったのだがな」
キィャーーーーーーーーーーッ!!!
ディメンションリッパーの甲高い叫び声と共に、吐きそうな程に濃いプレッシャーに襲われる。
ばたん
音のする方へ目を向けるとリタが倒れていた。気絶してしまった様だ。
「小娘は奴の気に当てられてしまった様だな。主人殿は平気か?」
「うん、なんとかね。足はこんなだけど」
ガクガク笑う膝を両手で抑える。
「うむ。真の恐怖を感じたか。決して今の感情を忘れてはならぬぞ。恐怖を感じられるこそ人は慎重になれるのだ。だが……主人殿を怯えさせた代償、高く付くと思え」
クルシュが一歩前に出るとメリーゼさんがそれを手で制した。
「お師様、魔物共はここにくるまでお師様とあたしの気に当てられてまともに戦闘出来なかったんだ。ここはあたしに任せてくれよっ!それとエルム。よく耐えたな。新人が耐えられるレベルの殺気じゃねぇってのによぉ。見直したぜ!これからあたしがサシであいつとやり合う。よく見とけ!」
遅くなり申し訳ない(ノД`)




