突き?
クルシュが優しく微笑みながら立ち上がった。よかった。機嫌治ったみたいだ。
「そういえば急ぎだったな。この階層の把握は完了している。【付与】に【体力向上】【速度上昇】【体力常時回復】。それ、走るぞ」
なんだ!?急に何かが漲るぞ!
走り出したクルシュについて行く。
「主人殿に合わせて走るので疲れてきたら言ってくれ。一応それ様にスキルを使ったがな。それと主人殿、本来スキルは唱えずとも使用出来るが、これからは唱えていく。主人殿も同じ様に使ってみてくれ。まずは実感してもらった方が良いだろう」
「うん!わかった!ていうか全然疲れないよこれ!凄いね!」
「ほんとうね!凄い!」
僕とリタは感動だ。
「これなら走りながらの会話も可能だ。メリーゼよ、小娘に何か聞くのではなかったか」
「ああ、リタだったか?そういえば、お前はなんであんな所で寝ていたんだ?」
走りながらの質問が始まった。
「え〜っと、昨日調査依頼を受けて森に入ったんですが私達の担当のエリアは異常が無くて、それで取り敢えず夜も調べてみようってなったんです。わたしはまだ入って日も浅いので、見張りはいいよと言われ、そのまま寝たんですけど起きたらギルド長の肩の上でした……もしかしてわたし、見捨てられたんでしょうか……」
「それはねぇな。あいつらはなんだかんだで苦労人だ。もしなんかあっても新人のお前を見捨てる様な真似は絶対しねぇよ」
「それならいいんですが……わたし、ハズレなのでもしかしたらって思っちゃったんです」
「それなら安心しろ。うちの奴らは基本ハズレだからな。なんの天職かは言えねぇがあいつらもハズレだ」
「そっ、そうなんですか!?」
「話はそこまでだ。このまま真っ直ぐに敵だぞ」
全員が前を向く。
どこまでも続く草原にぽつりと見えたのは一体の魔物だ。
「おっ!レッドバイソンじゃねぇか!食い出がありそうだぜ!お師様、収納お願いしても?」
「任せろ。ついでだ、私がやろう」
そのままレッドバイソンに向かって走り続ける。
あれ?なんかおかしいぞ?
別に僕の足は速いってわけじゃないけどそれでも全然近づく気がしない……
あれ?えっ?……うわっ!!
暫く走ってその原因がわかった。
めちゃくちゃでかいのだ。
木も何もないから比べるものが無いけど僕が縦に五人並んだくらいの大きさはあるんじゃないか!?
レッドバイソンはこちらに気づいた様で、鼻息を吐きながら向かって来た。
「よし、止まれ。では主人殿、よく見ておれ。瞬穿に繋がる最初の一歩、基礎スキルの【突き】を使用するぞ」
クルシュは僕達より前に出る。
ぐんぐんと迫るレッドバイソン。
地響きで立っているのもやっとだ。
レッドバイソンはその凶悪な角で串刺しにする様に頭を下げたまま突進してくる。
クルシュは待つ訳でも無く駆け寄るわけでも無く普通に歩いて行く。
そろそろぶつかると言う所で角を避け右腕を引き、突き出した。
ドッ、プォン
空気が、そしてレッドバイソンが、クルシュの拳を中心に波打った。
レッドバイソンは衝撃で宙に浮いたけど、
「それ、【空間収納】」
一瞬にして消え去った。
残るのは衝撃の余波。
僕のマントはバタバタいって、リタは後ろに転がっていった。
「どうだ主人殿、これが【突き】だ!」
拳を握りしめそう宣言するクルシュをただ眺めていると、後ろからメリーゼさんに肩を叩かれる。
「勘違いするんじゃねぇぞ。あれは【突き】じゃねぇ。「お師様の【突き】」だ。多分お前じゃスライムも殺せねぇ」
「……頑張ります」
どうしよう。手本が手本じゃない。
「さあ、そろそろ終わりも近い。行くぞ」
走って行くクルシュをただ呆然と眺めて、地平線へと消えてゆくまで見送りそうになった。
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目の前に下りの階段がある。
草原にぽっかりと。
「ふむ、やはり複数階層がある様だな」
「お師様の予想だと、後はどんな階層があると思うんだ?」
「私が出会した奴らの顔ぶれからして沼地、密林、雪山、砂漠もしくは山岳地帯だな。一階層まるまるか混合かはわからぬが」
「一般的っちゃ一般的だな。まぁ迷路タイプじゃなきゃなんでもいいんだけどな」
ダンジョンは大きく分けて洞窟タイプ、フィールドタイプ、迷路タイプがあるって聞いたことある。
「メリーゼさんは迷路タイプが苦手なんですか?」
少し気になり聞いてみた。
「あ?あぁ、まどろっこしいのが嫌いなだけだ。フィールドタイプなら一直線に進むだけだからな」
メリーゼさんのその答えにクルシュも頷いた。
「洞窟や迷路型の方が財宝や魔道具の類も多いのだが今回は急ぎ攻略を目的としているのだ。移動は速いに限る。それ、行くぞ」
その言葉を合図に階段を下って行く。
階段を下りきり薄明かりの向こうは銀世界。
雪山だった。
だけど不思議なことに寒くない。階段にいる限りここと向こうは別世界のようだ。
「さて、主人殿。なんのスキルを使えば良いかわかるか?」




