ありがとう
『主人殿、今から私がする事をよく見ていてくれ』
そう言ってクルシュは僕の肩から飛び降りた。
ぴょんぴょんと跳ねながら横たわる人達の間を進むと、ある一人の女性の所で止まった。僕も近くに行くと、女性の脇腹には布があてられていた。だけど、その布では隠し切れないほど傷は大きく、そして血溜まりが出来ていた。
クルシュが女性に触れると、その女性は緑色の光に包まれる。僕はこの光を知っている。
【ヒール】だ。
女性の傷はみるみるふさがっていき、やがて完全に塞がると、ゆっくりと瞼を開けた。
「あれ……わたし、森で……」
そう言って女性は脇腹に手を当てる。
「うそ……ない……傷が……」
そこまで言って女性はそばにいた僕に気付いた。
「これは、あなたが?」
未だ混乱した様子の女性の言葉にどう説明しようか迷っていたら、
『私が治した』
「「えっ?」」
クルシュに気付いた女性が驚いた様に声を上げた。
僕も違う意味で声が出てしまった。しゃべれる事は隠すって決めてたからね。
「クルシュ?」
『主人殿すまぬ。時間があまり無い故、後で説明する』
疑問に思って声をかけたけどクルシュからはそう返ってきた。
『して、娘よ』
「は、はい!」
『お主、自分の天職は判るのか?』
「いいえ、……わかりません」
『ならば教えてやろう。お主の天職は【回復術師】だ。どれ、見ておれ』
……え?
クルシュは近くで気を失って寝ている男性に【ヒール】を使った。女性と同じく、何かに切り裂かれた様な大きな怪我がみるみる治っていく様子に、女性は目を丸くする。
荒い呼吸から徐々に落ち着いて来ると、やがてすーすーと穏やかな寝息が聞こえて来た。
『お主には今と同じ事が出来る。だが、出来るが強制では無い。やるもやらぬもお主の自由だ』
「やります」
女性は間髪入れずそう返事をした。目に力強い光を宿しながら。
そして、
「ヒール!!」
女性は周りで倒れている人達に次々に回復魔法を掛けていく。
『うむ、ではその調子で頼む』
クルシュはそう一言かけて僕の肩に登ったと思ったらまたぴょんぴょんと跳ねていった。
次に来たのは大柄な男性の所だった。身体半分が赤く焼け爛れていた。その火傷は顔にも広がっていて恐らく目が見えていない。きっと炎を吐く魔物にやられたんだと思う。
「だ、誰が、ぞごに、いるのが?」
『ああ』
「だのむ、ごの子に、回復、薬を、なんでも、するがら……」
よく見ると男性の腕には小さな子供が。
……酷い。生きているのが不思議な位だ。でもこの怪我だと【ヒール】じゃ……
『二言は無いな』
クルシュの言葉と共に男性が淡く光る。だけど今度は緑色じゃない。淡いオレンジ色だ。
光に包まれた男性と子供はまるで時間が巻き戻るかの様に皮膚が覆い、瞬く間に治ってしまった。
「あぁ……あぁ!リオ!リオ!」
男性が大きな声で呼びかけているが腕の中では女の子が穏やかな顔ですやすやと眠っている。
『その子も無事だ。だが感傷に浸っている暇はないぞ』
声の主、クルシュを見て男性は目を見開くものの、それもほんの一瞬だけで、
「あぁ、なんでも言ってくれ。必ずや、恩に報いる!」
『お主、自分の天職はわかるか?』
「いや。わからない」
『そうか。お主の天職は【治癒術師】。そして先程お主らにかけた魔法は【リカバリー】だ。もう、お主でも使えるはず。火傷や酸で皮膚の爛れた者を中心にかけてくれ』
「俺が、魔法を?……いや、わかった」
男性はそう言うと、未だ眠る子供を片手で抱きながら走って行った。
その後も何人か治療したものの、その全員が治療系の天職持ちだった。
『ふむ、この位で良いか』
周りを見渡せば、さっき治した人達が次々と治療してまわっていた。未だ眠りについている人も多いけど、生きている事に喜ぶ人や、抱き合いながら涙を流す人がいる。
少しずつ、少しずつだけど雰囲気が変わって来ていた。その変化にギルド職員の人達も気付き始めたみたいだ。
クルシュが僕の肩に乗り、こう言って来た。
『主人殿よ、これから生きていく上で、大なり小なり似た様な場面に出くわすだろう』
「うん」
『もし、その様な場面に出くわしたのならば、己一人で出来ることを瞬時に見極めろ』
「うん」
『だが、その前にまず、己が力量を知らねばならぬ。ゆっくりでいい。主人殿。知を知り、理を知り、己を知れ』
「わかった」
きっと今、クルシュはとても大切な事を言ってると思うんだ。わかったなんて言ったけど本当は全然理解出来てないと思う。だってさ、さっきまで死にそうな人達を一人で助けちゃうんだもん。
みんなに言ってまわりたい。僕の自慢の友達なんだって。
でもね、
「クルシュ」
その前に、
『なんだ?』
沢山の感謝の気持ちを乗せて、
「ありがとう」
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