認めます
本日一話目!
空気が一気に張り詰める。今クルシュは僕の目の前、さっきメリーゼさんがいたテーブルの上にいる。
僕とエミリーさんはそのその張り詰めた空気に動くことが出来ない。だがそんな中、
「質問があります」
クリスさんだ。
「貴方はマスターの事をご存知の様子ですが、一体どの様な関係なのでしょうか?私はマスターと長い事共にしておりますが、記憶にある限りマスターがスライムと知り合いになった覚えはありません」
『……頭に血が上っていたとはいえ失念していた。この姿では分からぬのも道理だな……ふむ、では』
ん?何をするんだ?
『気を付けぇぇぇぇいッッ!!!』
ザッ!
へ?
「は?」
「え?」
クルシュのその大きな掛け声と共にに、戦闘態勢になっていたメリーゼさんと、そのメリーゼさんが殴り飛ばされようと表情を変えずに座り続けていたクリスさんが勢いよく立ち上がり、一斉にピシッと姿勢を正した。
僕とエミリーさんもびっくりしたけど本人達の方が驚いている様に見える。
『傾注ッ!!!!!』
バッ!ザッ!
「「!?!?」」
おお!今度はクルシュの方に向き直って右手の手のひらを胸に当てた。動きの一つ一つが素早くかっこいい!!
『ふむ、これで落ち着いて話せるな。で、クリスティーナメノスよ。貴様ら、主人殿に一体何をしたのだ?ああ、言葉は選ばずとも良い。正直に話せ。どの道、貴様らは主人殿に不敬を働いたのだ。沙汰は免れぬ』
「おいおいおいおい、なんだよこれ……」
「私の事をその様に呼ぶのは……それにその話し方、全身から迸る覇気……まさか……貴方様は……」
「なんだよクリス!誰なんだよ!」
「……シュティングレイ様なのですか?」
「はぁ!!?」
シュティングレイ?クルシュが?
『うむ、そこの単細胞鉄鉱娘と違ってやはり貴様は聡いな』
「いやいやちょっと待てよクリス!こんなスライムがお師様なわけないだろ!騙されるなっ!国のやつらの差し金だ!」
「マスター、確かにその考えも捨てきれませんね。……大変申し訳ありませんが、貴方様がシュティングレイ様である事を今の私達は立場上、素直に受け入れる事が出来ません。何か証拠になる様なものはありますか?」
『どれ、少し待て』
ジャラ
クルシュの前にネックレスのような物が出て来た。
『お前達でも分かる物はこれくらいしか無い。当時身に付けていた物は全て破棄されているであろうしな』
クリスさんは姿勢を崩しネックレスを拾い上げる。
「マスター、これはシュティングレイ様の認識票です」
「お師様の物を持っていたとしてもそれが証明になるわけがねぇだろ」
『確かに。私でも信じぬな。では、これならどうだ?メリーゼは竜の屏風、クリスティーナメノスはシスティム古代遺跡の最下層、であったか?初めて出会ったのは』
「はい、ですがあの場には他の方もいらっしゃいましたので、その情報のみでは貴方様がシュティングレイ様であるとの証明にはなりません」
そうクリスさんに言われてクルシュは黙り込んでしまった。持ち物を出しても駄目、知っている事を話しても駄目。これ、証明むずかしくないかな?ていうかそもそもクルシュは何者なんだ?クルシュは二人を知っているようだったし。でも本人は長い事森にいたって言っていたような気が……
『ふむ、これだけは墓まで持っていくつもりだったのだが……』
「はっ!もったいぶってないで言ってみな!」
『メリーゼよ、もうワイバーンは大丈夫なのか?』
「はっ?……なっ!!!」
メリーゼさんの顔がみるみる赤くなり、
『クリスティーナメノス、今も描いているのか?』
クリスさんの目が見開かれた。そしてその瞳を潤ませて、
「……貴方様をシュティングレイ様と認めます」
「本当に、……本当にお師様なのか!」
『あぁ、大きくなったな、二人とも。研鑽も怠っていないようだ。最初見た時は一瞬誰かわからなかったぞ』
ドドドドドドドドドドドド
「ちょっとクルシュちゃん!急にどうしたっていうのよ!……って、え?」
クルシュと納品に行っていたキャサリーンさんが戻ってきて唖然としている。
そりゃぁねぇ、誰だってびっくりすると思うよ。だってメリーゼさんとクリスさん、クルシュの事を抱きしめながら大泣きしてるんだもん。
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「すまなかった!」
「申し訳ありませんでした」
メリーゼさんとクリスさんが僕に謝罪して来た。二人の目はまだ赤く腫れぼったい。
『主人殿、すまないが許してはくれまいか?もしまた主人殿に無礼を働いたら私が躾し直す故』
「クルシュ、僕は別に怒っているとかじゃ無いから別にいいよ。と言うか全然理解出来ていないし。お二人も顔を上げてください」
二人ともそう言うと顔を上げてくれた。
キャサリーンさんもやって来たのでもう一度説明をしてもらった。
エミリーさんにもちょこっと教えてもらったけどハズレ天職持ちに対して、国は監視、教会は保護をしているけど各ギルドは育成をしているようで、その性質上国とは敵対関係にあるみたい。
『それで主人殿が疑われたと』
登録してからたった一日二日ではあり得ない成果を上げたと報告のあった僕が疑われたようだった。それに、
「いつもであれば疑いつつも泳がせておくのですが、キャサリーン嬢によるエミリーさんからの紹介状の隠蔽があり、同じタイミングで森の異変があったもので……誠に申し訳ありません」
不幸に不幸が重なった結果だったみたいだ。
『まぁ、森の異変に関しては分かったであろう?』
「と、申しますと?」
『迷宮が産まれるのだ』
「「「「……えっ?」」」」
あれ?キャサリーンさん、報告してないのかな?
……あっ!言ってなかったかもしれない。
この後17時にもう一話更新します!
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