スライムブリーダー?
「次の方、こちらへどうぞ」
呼ばれた人は個室へと入って行く。そろそろ僕の番だ。段々どきどきしてきたぞ。
僕は今、【天職の儀】による天職を授かる為にわざわざ十日も掛けて王都にある神殿に来ていた。
この世界では十五歳になる歳の年の終わりに神殿で天職を授かることが出来る。大きな街にも神殿があり、そこでも【天職の儀】は行われているが僕の生まれ育った村から一番の最寄りが王都なのだ。
「次の方、こちらへどうぞ」
僕は声のかかった方へ進み、個室に入る。目の前には大きな水晶玉。幾つか説明された後、言われるまま台座の上の水晶玉に手を乗せると段々と光り輝き始める。これで僕もようやく働くことが出来る。天職を得て初めて大人と認められ、それまではどれだけ働こうがお駄賃程度の稼ぎにしかならないのだ。
両親がいなくなった後、僕をここまで育ててくれた爺ちゃんに恩返しをしたい。出来れば直ぐに働ける様な天職であって欲しい。と、そんな事を考えていると徐々に水晶玉の光が消えて行く。
「確認をお願いします」
そう担当の神官に言われ、水晶玉を覗き込む。最初の説明にあったけど水晶玉に天職が浮かび上がるらしく、それは【天職の儀】を受けた本人にしか確認出来ないようだ。僕は恐る恐る水晶玉を覗き込む。そこには、
天職―スライムブリーダー
とあった。スライムってあのスライムだよね?ブリーダーって?
僕はどんな天職を授かっても直ぐに働ける様に色々な天職を調べていたけどスライムブリーダーは初めて見た。
訳もわからず呆然としていると、
「おめでとうございます。無事天職を授かった様ですね。貴方に神の御加護があらん事を」
淡々と神官はそう述べて出口のある方へ促される。まだ聞きたいことがあったけど、僕の後ろには沢山人がいたし迷惑がかかると思い、次の人を呼ぶ声を聞きながら外へ出た。
直ぐに働ければ何でもいいとは思っていたけど、スライムブリーダーは想定外だった。そもそもこの天職で出来ることが僕にはわからない。
正直に言えばあまり体を動かすことが得意ではないので事務系の書記官や鑑定士とかが良かったんだけどね。この二つは数あるギルドでも引っ張りだこで一生食いっぱぐれがないと言われている。最悪、戦士系の天職でもそれこそ剣士などの一般的な天職を得られれば直ぐ様騎士の訓練生になれる。
……さて、僕は何になれるのだろう。
悩んでいても仕方がないし、いつまでも神殿にいてもしょうがないので取り敢えず移動することにする。
目指すは王立図書館だ。スライムと名が付いているのでテイマーズギルドに行くのが正解なんだろうけど恐らく今行っても【天職の儀】を受けた人たちでごった返しになっていると思うし、それなら今自分で出来ることをしようと思った訳だ。
程なくして到着する。この図書館ではカテゴリー別に料金が発生する仕組みで僕のお目当ての【天職全集】はカテゴリー1。なんと無料で閲覧可能なのである。カテゴリーに関係なく持ち出しは禁止されているけどね。
早速受付をし【天職全集】を探す。直ぐに見つかりその分厚い本を机へと運ぶとお目当てのページを捲る。
すー、すー、スタ、スマ、……スラ〜、スライス職人、おしい!……スライムテイマー、スライムハンター、スライム、スライム、あった!スライムブリーダー!えーっとなになに?
スライムブリーダー
スライムの繁殖及び改良を行う者
スライムからの友好度 極大
スライムのみ従魔契約可能
得られるスキルはカテゴリーⅤにて閲覧可能
せっ、せこい……カテゴリーⅤは確か情報によって金額が変わったはず。安くても金貨一枚だったかな?それだけで半年は暮らせる額だ。まぁ、スライムブリーダーという天職で何が出来るか、大まかながら掴めたので良しとするか。
この時の僕は早く働きたいという気持ちでいっぱいで何故スライムブリーダーのスキルの閲覧がカテゴリーⅤなのか全く気にしなかった。
王立図書館を出た僕はその足でテイマーズギルドへと向かった。やっぱりスライムと言えば魔物。魔物と言えばテイマーズギルドか冒険者ギルドだもんね。で、冒険者ギルドは却下。たまに村でも見かけたけど、あんなガチガチの装備なんてつけたら恐らく一歩も動けない。
なんて事を考えていたらテイマーズギルドに到着。結構調べ物に時間がかかったからね、案の定あまり人は見られない。
テイマーズギルドは魔物を従魔にしてその従魔と共に様々な依頼を受けるギルドらしい。らしいと言うのは僕の村にはギルドは冒険者ギルドの出張所しかなく詳しい事はあまりわからないのだ。でもスライムも魔物だし何とかなるよね?
緊張しながら中に入る。中は物凄く広く、テイマーズギルドの外でも見かけたけど、建物の中には様々な魔物や魔獣を従魔にしている人達がいた。そして従魔も様々な種類がいる。あれはグリーンホース?確か風の様に脚の速い馬の様な魔獣だ。それにあっちにはエレメントバード。様々な魔法を使える鳥型の魔獣。図鑑でしか見た事無かったけど本物は迫力が違う!と周りの様子に圧倒されていると、
「こんにちわ、テイマーズギルドへようこそ!」
受付から結構距離があるのに声をかけられた。うわぁー、僕お上りさん全開だったよねー、ギルドに入るなり周りキョロキョロしちゃってたもん。
「こ、こんにちは!エルム・グローディアと言います!今日【天職の儀】を受けてきました!ここで働かせて下さい!」