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こうかい日誌 上巻  作者: A.I.
1日目
7/99

合流 1

「これってさー…私たちのせーじゃないよね?」


智春の言葉に、同時に動きを止める純と雄央。

三人とも同じ不安を胸に抱えている。

余りにもタイミングが合いすぎていたから。


「仮にそうだとしても、」


純が切り出す。


「僕たちは…キッカケ、でしかなかったと思う。」


生体認証が反応したという事。

それは、あらかじめ情報が登録されていたという事。

それは、自分たちがここへ来ることを予見されていたという事。

つまり、


「だよねだよね!私たちは嵌められたんだよ!」


としか考えられなかった。

芝居がかった妙に明るい声が響く。


「だいたいさー?船内図に載ってない場所がホントに秘匿区画だなんて思わないじゃん、ふつー。隠しときたいなら立入禁止ってちゃんと書いとかないとだめだよねー?」


立入禁止だからこそ、載っていなかったのだが。

智春はどんどん早口になる。


「そもそもセキュリティーだって甘々だったし。四桁のばんごーって銀行か!って。ここだって…触ったら開いちゃったんだし?別に悪い事してないし?そうだよ!私のじょーほー登録されてたって事は個人じょーほーの漏洩じゃん?私被害者じゃん!つまり!黒幕はこの船に居る。」


最後はご丁寧に声色まで変えていた。


「黒幕が居るかはわ、わからないけどね。…このメッセージも変だよ?」


やんわりと智春を窘めつつ話題を逸らす。


「これ送信された時刻ってぼ、僕たちここに居たのにね。送信元ここなんだもん。」


「え、それ」


「私達、疑われる?」


何事か言いかけた純と、思い至った智春。


「え、何を?」


未だピンと来ない雄央は


「このメッセージ、私達の、悪戯かー!って…」


智春の解説を受けて


「ああ!」


そのまま固まった。

智春もしょぼくれている。

そんな二人を眺めながら、今度こそ大丈夫だろうと純は口を開く。


「大丈夫じゃない?ログには発信者名残ってるし。」


やっと言えた。


「えぇぇ!?ログ見つかったの?」


「ああ、うん。あー言い忘れてた?」


「大事なやつじゃん。忘れちゃだめなやつー。もー。」


言葉こそ責めるようだが、その表情は笑顔だった。

純は誇らしさを感じる。

言えなかったのは君のせいだけどね、と心の中で付け加えながら。


受け取ったメッセージはなぜか送信者の欄が空白だった。

その謎を解明するという名目で、コンソールを弄りまわす三人。

てんでんがばらばらに好き勝手する。

その最中、純はメールサーバに行き当たった。

その中で純はログファイルを見つけた。

そこには、こう書かれていた。


「A.I.かー。なんてーか、こー、なに?」


「思い当たる人が居ないね。」


フルネームを登録する事が常なので、短縮表記のようなこれは例外中の例外。

ましてや、仮にイニシャルだとしても思い当たらない。

謎が謎を呼んでいた。


「これは!めーたんてー私の出番!?」


「うん?」


「智春ちゃんそういうのす、好きだっけ?」


「あの、もちょっとさー…いや、もーいーです」


「まぁまぁ。冗談はさておいて、階級とか役職かな?」


「ハンドルネームって可能性もゼ、ゼロではないんじゃない?」


私だけ馬鹿みたいじゃないか!という言葉を飲み込んで、智春も真面目に考える。


「あとは、あれじゃない?文字どーり、えーあい」


「有り得なくはないか。なんで?って気はするけど。」


「船体せーぎょの補助とか?」


「ちょっと過剰じゃない?」


「そーなんだけどさー」


結局、謎に謎を呼ばれてしまった。

考え込む三人。

その時、ポーンという軽い電子音が鳴る。

何故か慌てる三人。

その頭上から、空気の違う声が響いてきた。


「うわ、マジで開いたし。なにここ?」


「おさきにどうぞ。」


「いや、お前から行けよ。」


「あー、出来れば進んでもらえると?」


「ほら、紫奈困ってんじゃん。早く。」


「レディーファーストって言いたかっただけなんだけど…」


「うっわ、ひっろ。」


「幸音ちゃん、こういう所好きそうだよね?」


「…ちゃん付けで呼ぶなって言ったよね?」


「あれ、そうだっけ」


「あー!先客いるよー!挨拶しないと、挨拶!」


あ、苦手な奴だこれ、と顔に書いてある三人。

出迎えの為に立ち上がり、整列する。

幸音達もそれに倣った。


「初めまして。通信の蜜綺幸音です。」


落ち着いた調子と丁寧な発音で挨拶する幸音。

咄嗟に反応できない三人。

先程までの乱暴な口ぶりとは落差が激しすぎる。

皆から隠れて、紫奈は笑いを堪えるのに必死だった。


「同じく、須々木天元です。よろしくお願いします。」


「同じく、垣津紫奈です。よろしくね。あと、智春ちゃんお久しぶりー。」


完全に色を失っていた智春。

名を呼ばれたことで現実に戻ってきた。

紫奈とは交換実習で一緒になった事がある。

交流があったのはその一度きりなのだが、名前で呼び合う事になっているようだ。

その事自体には智春も異存は無い。

けれど、今のこの軽やかな空気は駄目だった。


「あ、はい。鈴掛智春です。電技です。よろしくお願いします。」


完全に飲まれている。

智春は本来、余り喋らない。

純も雄央も、出会った時点では寡黙だと認識していた程に。

今では180度転換しているが。

いつものように純が前に出る。

庇うような位置で自己紹介した。


「同じく、盃護純です。よろしくお願いします。」


幸音と紫奈が目配せしている。

紫奈に至っては、あからさまに楽しそうだ。

よく見る光景に、純は身構える。


「同じく稚菜雄央、ですよろしくお願いします。」


雄央はいつの間にか智春の横に移動していた。

純は頼もしさを覚える。

そんな一連のやり取りに全く興味が無い天元。

自己紹介が終わった。


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