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こうかい日誌 上巻  作者: A.I.
1日目
6/99

三人 1

「ゆーくーん。これどー思う―?」


「僕に聞かれてもか、書いてある通りとしか…」


「もー頼りになんないなー。じゅんくーん?」


「ちょっと待って、今手が離せない。」


「むー!」


集合場所に誰よりも早く到着した、というより、指定される前からそこに居た三人。

それぞれモニタと睨めっこしながら、観客のいないコントを繰り広げている。


その日たまたま三人のオフが重なった。

前日から楽しみにしていた智春は、彼女にとっては易し目な訓練を、彼女なりに頑張った後、燃え尽きている二人を引きずって、彼女曰くちょっとした冒険へと繰り出した。

それは、立入が許可されていない区域への探索。

そこは、船内図上で白塗りされている秘中の秘。

きっと機密事項に関わる凄い場所だと嬉しそうに語る智春を見て、純と雄央は白旗を上げた。

内容はともかく、一緒に何かをするという事は楽しそうだったから。


船内とは言え、マップの参照できない場所を進むのは危険だからと、男子二人で智春を挟むようにして進む。

道中いくつかロックされている扉もあったが、純お手製の“オモチャ”の前には無力だった。

非常灯に照らされるのみの、薄暗く足元の悪い通路、のような空間。

所々狭く、配管や配線がむき出しになっているその中を、身を寄せ合いながらどうにかこうにか進んで行く。

実の所、智春はもう満足していた。

言い出した身でありながら、この先にたいしたもの等無いだろうとも思っていた。

だから、適当な所で引き返すつもりだった。

二人が、疲れている事はわかっていたから。

それでも付き合ってくれた事が嬉しかったから。

ここまで三人で一緒に過ごせた。

それは、今回の実習が始まってから初めての事。

それだけ、お久しぶりな事。

少しだけ泣きそうだった。

そうして、いよいよ引き返そうと言おうとした時、


「智春…これ…」


立ち止まった純に指し示される。

そこは、これまで来たモドキとは違う、きちっと整備された通路。

左右に伸びるそれは、高い天井にきっちりとした照明装置が埋まっているにもかかわらず、真っ暗だった。

端末のライトを頼りに辺りを見回す三人。

期待していた以上の収穫に胸を躍らせる。


「智春ちゃんこ、こっちは隔壁が閉まってた。」


「こっちは、結構奥まで行けそうだよ。」


「どーしよー…」


これ以上二人を連れまわすのは気が引ける。

かといって、実際に何かを見つけてしまった以上、行ける所まで行きたくもある。


「とりあえず、行けそうな方行くのが良くない?」


「だね。隔壁開けるのはい、いろいろ危ない。」


悩みとは全然別の所へ提案をしてくる二人。

智春はほんの少しだけ不満だった。


「…どんかん。」


「え、何か見つけた?」


「ちょっと待ってい、今ライト強くする。」


人の気も知らないで、とは言えない。

おたおたと辺りを調査する二人を見ていたら、細かい事はどうでも良くなってしまった。

自らの好奇心に従う。


「こっちいこー、こっち。何かありそーな予感!」


「あれ、この辺でな、何か見つけたんじゃ?」


「いーの!」


言うなり二人に背を向けて歩き出す。

それはただの照れ隠し。

後ろの二人は今頃、機嫌を損ねたのではとオロオロしているはず。

そんな事を考えながらはにかんだ。


「ああぁ、だから、危ないから駄目だって。」


そう言って前に出てくれる純。

いつの間にか、後ろにぴったりと付いてくる雄央の気配。

今の顔は絶対に見せられないと、伏せながら幸せをかみしめる智春。

そんな彼女の前と後ろで、それぞれに戦々恐々とする純と雄央。

デコボコトリオは今日もデコボコだった。


「えーそーゆーオチー…?」


「うーん、こればっかりはねぇ」


「試しに触ってみ、みたら?」


三人の前に立ち塞がったのはロックされた扉。

しかも今回はセンサー搭載。

ICか生体認証か。

いずれにしても純の“オモチャ”には荷が重い。

無理をすれば冗談で済まされない事態も起こりうる。

かといって、ここまで来て、という思いも捨てられない。


「よし、決めた。」


唐突に智春が宣言する。


「ゆーくんのせーね!」


「なん、だっ、てー。よしど、Don’t来い!」


「いいの?だめなの?」


「それ、会話でやっても僕らしかわからないでしょ」


つまりは皆、好奇心に敗北した。


「はい、触ります!どーん!」


「え、はや」


「いきなり!?」


決めたが早いか、センサーに触れる智春。

その躊躇の無さに慌てる二人。

それは油断だった。

何かしらのIC媒体が必要なら、触った所で何も起きない。

生体センサーなら、あらかじめ登録しなければ反応しない。

三人ともがそう考えたからこその寸劇。

しかし。

確かに鳴った。

ピッという小さな電子音が。

通路に明かりが灯っていく。

はっとする三人。

その目の前で、扉が右にスライドしていった。

恐る恐る扉の向こうを覗く。

そこは、上下二段で構成された広大な1つの部屋。

中央に向けて迫出す格好になった上段の先端に1つ。

その上段を対称軸として下段の左右に複数。

それぞれコンソールが並んでいるのが見える。

そして、警報が鳴った。


「え、ええ、えっ、えっと、」


「うわぁっ…船外服、まずは着替えないと。」


「でも、私、これ、」


「反省も償いも後から出来る。」


「僕は下をみ、見てくる」


「じゃぁ僕は通路の壁を調べてくる。智春、上段を捜索してみて」


「うん…わかった」


思い思いの場所で船外服を求める三人。

実の所雄央にはアテがあった。

迫り出す構造、その足元には収納がある。

そんな思い込みでしかない、直感が。

今回は奇しくもその通りであった。


「あったよ!船外服!」


船外作業用防護服。

通称船外服は原則的にフリーサイズだ。

智春は若干標準より小さいが問題は無い。

もちろん、残りの二人も。

上下に1対2で別れて着替えを始めた。

それは全裸に専用の肌着を身に着けた上に着こむ。

その事実に、危うく妄想が逞しくなり掛ける二人。

慌てて、己の着替えに集中する。

本格的に装着しようとすると、二人一組での着替えが必要になるが、今は非常時なので簡易で済ます。

これであれば一人でも着替えられる。


「ねー?どっちが私の着替え手伝ってくれるのー?」


上から愉快そうな声が降ってくる。

お陰で二人は冷静になれた。


「簡易装着でいいんだよ」


「智春ちゃん、非常時だからじょ、冗談言ってちゃだめだよ」


衣擦れの音に理性を吹き飛ばされそうになっていた二人にとっては正に救いの女神。

そもそも、その女神こそが元凶であったとしても。


「ふーん。そーですかー。」


私不機嫌です、とでも言いたげな声。

照れたり、慌てたりして欲しかった。

冷静に返されると惨めだ。

沈黙は金、だった。


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