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こうかい日誌 上巻  作者: A.I.
1日目
2/99

朝使 樹

警報。

文字通り、警戒するよう報せるもの。

それは通常、何に、どのように、といった補足のアナウンスを伴う。

それが先程鳴り響いた。

予め決められていた手順に則って、僕たちは船外作業用の防護服を着用し、不意の衝撃に備えて体を椅子に固定した。

それから、かれこれ10分は経っただろうか。

ただの一度も、船内放送はおろか、連絡網へのメッセージすらない。

僕は確かに門外漢だ。

出来る事といえば、避難誘導位だろうし、それだって正式な訓練を受けたわけではない。

だとしても、名目上は職員待遇なのだし、少なくとも子供たちを預かる側の一員なのだから、もう少し状況を共有してくれてもいいのではないだろうか。

そんな子供じみた不満ばかり募っていく。

ふと視線を上げると、そこには預かった子供の一人が眉間をすぼめて俯いていた。

我に返る。

自らの職責を戒めた。

私は、先生なのだから。


「眉間にしわが出来ちゃうぞ?」


手振り付きで軽口を叩く。

嫌そうな顔でこちらを見返す少女。

どうやら、上手く茶化せたようだ。

しかし、すぐにはにかむ。

どうやら、こちらの意図は筒抜けてしまったらしい。

相変わらず聡い子だ、と思った。


「背中が痛くなってきたんです。早く解放して欲しいなぁ。」


わざとらしくため息までついてみせる。

それは計算高さなのかもしれないが、無邪気さにも見えた。


それから暫くは取り留めの無い会話を続けた。

けれど、流石に話題が尽きる。

どうしたものかと思案を始めた折、ようやっと端末に連絡が入った。

今更か。

多少仄暗いものもあるが、これで身動きが取れると思えば我慢できた。

けれど。

見れば彼女もメッセージを受け取ったようだ。

緊急時の私信は禁止されている。

もしくは業務連絡か?

鎌首を擡げようとする赤や黒を抑え込み、浅く息を吐く。

彼女を信じる事にした。

一呼吸おいてから、尋ねる。


「何か、指示を受けたのかい?」


「はい、集合するように、と…猫の手も借りたいのでしょうか?」


安堵と共に苛立ちを覚える。

彼女は準士であり、いわば専門家だ。

このような状況では、僕などより余程役に立てるのだろう。

子供相手に嫉妬する等惨めな事この上ないが、それでも常々思ってしまう。

この子たちの有望さ。

その、前途洋々たるや。

意識して、深呼吸をした。


「私には良くわからないけれど、」


話していれば、私を取り戻せる。


「君たちの知識と技術は一任前だからね。現場の人達もそう思ってるんじゃない?」


この子は、私の心持ちに敏感だ。

今は、諸々の不満を不安と捉えているのだろう。

私の顔を覗き込んでいる。

腐っている場合ではない。


「さぁ、準備をしよう。詳細がわからないままだから、十分に警戒しないとね。」


私が私である為に、彼女の模範であり続けよう。


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