ガラスの箱には鍵をかけて

作者：南天

　携帯が鳴った。

『明日14時に駅で！』友達からのLINEに『了解』と返して溜息をつく。

　あいつからの連絡なはずないって分かっているのに、携帯が鳴るたびに期待してしまう。

　どうせあいつは私のことなんて気にもしてないんだろうな。自分の都合のいいときにしか連絡してこないし。

　期待しては落ち込んで、そういうのやめたいのにな。

　男友達とホテルなんか行くもんじゃない。

　気の合う男友達で遊ぶのは楽しかったし、何かと構ってくれるのも素直に嬉しかった。恋愛とか関係なく、良い友人だった。

　ホテルに誘われた時は、今フリーだしまぁいっか、くらいの気持ちでしかなかったけど、それが間違いだったんだと思う。

　押し倒されて、初めてあいつの男の目で見られて。

　こんな顔もするんだ、なんて思ったのも束の間、優しいキスをされた。まるでそうすることが自然みたいに深くなって、もっとしたいって思ったキスは初めてだった。

　付き合う前に体の関係を持った場合、男は相手の女に興味を失い、女は相手の男に情を持ちやすいと聞くけれど、それはあながち嘘ではないのかもしれない。

　あいつのことはただの男友達としか思ってなかったのに。まともに恋なんてしたことなかったし、気持ちが変わるなんてないと思ってた。

　今じゃ普段の生活でも、気付けばあいつのことを考えてしまう。あいつはたまにでも、私を思い出すときがあるんだろうか。

　LINEは返ってこないのにSNSは更新されてるとか、いいね！すらしてくれなくなったなぁなんて、そんな小さなことで落ち込んだりもする。

　私が割り切れてないって気づいちゃったのかな。

　柄にもなく嘘か本当かわからない恋愛コラムを読んじゃったりして。あいつの言動を思い返しては当てはまるかもとか思ったりしたけど、付き合っていないのに誘われる時点で恋愛対象じゃないんだってことに気付いてしまった。

　でも『髪の色変えたね』とか、『今日、体調悪い？』とか、些細なことに気付いてくれるから。もしかしたら、なんて期待が消せないでいる。

『なんで私を誘ったの？』

『私のこと、どう思ってるの？』

『彼女は作らないの？』

　何度も聞いてみようと思ったけど、どれも言ったらもう会ってくれない気がする。だから私は、興味ありません、ただの遊びですって態度で本音を隠すしかできない。

　会わないでいれば、他の男の人と過ごしていれば忘れられるかもって思ったけど、やっぱり違うと感じてしまう。

　本当はこの気持ちが何と呼ばれるものなのか、とっくにわかってる。それでも、言葉で認めてしまったらもう戻れない気がするから。誤魔化し続ける往生際の悪い私。

　この気持ちはどうやって片付けたら良いんだろう。

　いっそのことぶつけてみたら、あいつの気持ちを揺らすことくらいはできるのだろうか。会えなくなるのが怖いから、まだしばらくはしまっておくけれど。

　ふいに携帯が鳴った。名前を見て、心臓が跳ねた。

『来週の土曜日、空いてる？』

　会えることに喜んで、でもあいつは私じゃなくてもいいんだろうなって落ち込んで。複雑な思いを抱えながらも、私の選択肢はひとつしかない。

『空いてるよ』

ありがとうございました。