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善人おっさん、生まれ変わったらSSSランク人生が確定した  作者: 三木なずな
第十章

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04.善人、気づかれない内に呪いを解く

「どうしてそんなものを使ってるの? 誰かに無理矢理つけさせられた?」


 暗殺者の少女に聞く。

 マスター、という言葉を発していたから、この場合そのマスターとやらが元凶の可能性が高い。


 子供にしか使えない呪法を無理矢理仕込んで、使い捨てにする人種が世の中に多く存在する。

 そういう類なのかな、と思ったけど。


「違う」


 少女はきっぱりと否定した。


「これは生まれつき」

「そうなんだ」


 少し驚いたが、そういう事もある。


「生まれつき……私のたった一つの宝物」


 少女はそう言い、そっと手で自分の右目を覆った。

 大事に大事に、愛おしげに。


 宝物、という言葉はその通りのようだ。

 そんな少女の姿をアンジェと一緒に見つめていると。


「――っ!」


 ハッと我に返った少女は、床を蹴って後ろ向きにジャンプ。

 そのまま窓から飛び出していった。


「ああっ!」


 慌てるアンジェと一緒に窓際に駆け寄った。

 飛び出した少女は野生の動物の様な機敏な身のこなしで、屋根から屋根へと伝い逃走していった。


「使っちゃダメだよー」


 両手を口元に添えて、少女に呼びかけた。

 屋根の上を飛ぶ小さな体が一瞬だけビクッとしたから、声は届いたみたいだ。


「アレク様、良かったんですか、あのまま行かせて」

「うん、僕にも準備が必要だし」

「でも、他の人にあの目を使ったら。それにマスターという人に処罰を受けちゃうかも」

「それは大丈夫。多分また来る。僕がターゲットだから、当面は他の人には使わないでしょ」

「そうなんですね」


 納得するアンジェ。

 私は月夜の下で逃走する少女を眺めて、彼女にしてあげられる事を考え続けた。


     ☆


 次の日、宴の余韻を残したまま、ダクスの村の余剰食糧を買い取る作業をした。

 豊作から税金に払う分を引いて、更に各農家で考えがあって備蓄しておきたい分を残して、余った分を買い取った。

 来るもの拒まずという感じで、あるだけ買い取った。


 自給率1000%を越えるこの村の余剰分は、1000人分を一年は養える量を優に超えていた。


     ☆


 夜、二泊目の村。

 すやすやと寝息を立てているアンジェのぬくもりを感じていると、スタ、とほとんど聞き取れない程度の小さな足音がした。


 ベッドの上で、アンジェを起こさないようにゆっくりと体を起こす。


「やあ、待ってたよ」


 目の前にいるのは昨日の暗殺者の少女だった。

 今日は武器のあいくちをもって無いが、右目は前髪で隠したままだ。


「聞きたい」

「うん?」

「あれはお前の女?」

「アンジェの事? そうだね、許嫁で、僕の正妻になる人だよ」

「なぜ抱かない」

「うん?」


 いきなりなんの話だ、と首をかしげる私。


「お前は貴族の男、そして金か権力を持った男は全員好色」

「偏見が少しあるようだね。完全に否定しきれないのが悲しいけど」


 私も健全な男なのだから――いや。

 若い肉体に生まれ変わったのだから、むしろ前世の最後当たりよりも衝動や欲求は強くなっているのかも知れない。


「なぜ抱かない。その女が幼いのなら、村が用意した女もいる」

「いたねえ」


 昨日の歓迎や宴、今日の買い取りの時にもちらちら見えた。

 村が用意した女の人。

 貴族で権力者の私が望めば、いつでも差し出せる綺麗な人たちの気配を感じていた。


「貴族の男は好色だ、権力で無理矢理女を手籠めにする様な下半身だけの生き物だ」

「それは君のマスターが言ったこと?」

「……」


 少女はまっすぐ私を見た。

 どうやらその通りのようだ。


 私は少し考えて、答えた。


「僕はお互い幸せじゃないのがイヤなのかも知れないね」

「幸せ?」

「うん、幸せ」

「幸せって何」


 そこからかーーいやそういう境遇(、、、、、、)かと思った。


「難しいね。僕は周りの人達が笑顔だったら幸せかもしれない。それ以上は考えないようにしてるかな」

「笑顔」

「笑顔は知ってるでしょ?」

「知ってる。でもした事ない」

「した事ないの?」


 小さく頷く。


「必要無かったから」

「必要無くて笑うから、幸せなんだと思うよ」

「難しい」

「そっか」

「笑顔になれば幸せになれる?」

「そういう場合もあるね。普通は逆だけど」

「……」


 少女はうつむいてしまった。


 気分を害したのかな、なんて思っていると、彼女の口元と、頬の筋肉がビクビクとけいれんしているのが見えた。

 どうやら笑顔を浮かべてみたい、そのためのチャレンジをしているみたいだ。


 私は手を伸ばした。

 両手とも人差し指を伸ばして、彼女の口角にそっと触れた。


「――っ!」

「逃げないで。こんな感じで口をこういう形にすれば良い」

「こ、こう?」

「うん、いい感じ。こんなのもあるね」


 そう言って、両手同時に少女のほっぺたを掴んで、ビローンと広げた。

 自然と少女の顔が、口の形が笑顔の形になる。


「あとは……こちょこちょこちょ」

「――――っ!」


 少女はびくっ、びくっと体が硬直した。

 脇の下をくすぐったが、効果は今一つのようだ。


 少女はパッと飛びのいて、自分の体を腕で隠すように回して、警戒する目で私を見た。


「なにをする」

「こうすると笑いが出るんだ。今なんか来たでしょ」

「き、来たけど……」

「それを我慢しないで」


 そう言ってもう一度手をのばす――が。


「わ、私に触れないで」


 少女は更に一歩後ずさった。


「それはやだ……こわい」

「そか。ごめんね。じゃあ――こういうのはどう?」


 そう言って、両手で顔を隠した。

 こっそり魔法をかける、顔のパーツを適当に散らばらせた。


 パッと手をどかすと、福笑いのようになった私の顔がお披露目となった。


「――ぷっ」

「お、いい感じ。それが笑顔だよ」

「……あ」

「どうだった?」

「……………………悪く、ない」


 少し長い沈黙の後に、少女が絞り出したのは意外にポジティブな感想だった。

 この路線ならいける、と、私は彼女を笑わしに掛かった。


 顔芸をやって、楽しい話をして。

 色々とやって、少女を笑顔にさせようと試した。


 その甲斐あって、朝の頃になると彼女はうっすらと、少しだけ自発的な笑顔が作れるようになっていた。


 が、東の空が白みはじめるのにつれて、まるで魔法が解けてしまったかのように、彼女の顔が少しずつまた硬さが戻ってきた。


 まるで、自分は闇の住人で、こんなことをしてる場合じゃない、と思い出した――とても言わんばかりに。


「……もう、行く」

「うん、またね」

「……」


 窓縁に手をかけて、すわ飛び越える――と思ったが、少女は振り向き、私をじっと見つめた。


「どうしたの?」

「言わないの?」

「何を?」

「魔眼、使うなって」


 昨日みたいに、って語尾に聞こえてきた気がした。


「それならもう大丈夫。使うと寿命が減るのをもう取っ払ってるから」

「…………………………え?」


 キョトン。


 少女は何が起きたのか分からない、って感じで呆けてしまった。


「とっぱら、った?」

「うん。大事な宝物だよね。だったら使うと寿命が縮むのはだめだから。長く使える様にその制限というか、呪いというか――それを取った」

「い、いつ?」


 私はにこりと、両手同時に人差し指で自分の口角に添え、ぐいっと持ち上げて笑顔にした。

 少女はハッとした。


「あの時……」

「そう」

「…………あれだけで?」

「あれで充分だよ」


 少女は、信じられない様な目で私を凝視した。

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