02.善人、SSランクの父親に内定する
客間から外に出た。
壁越しでも聞こえてくる、女性達の話し声。
部屋の中にはホーセンの三人の側室と、アンジェにミアがいる。
アンジェとミアが来てから、初めて屋敷に現われた妊婦。
二人とも妊娠と赤ちゃんに興味津々で、色々と話を聞いていた。
側室達の事は二人とメイド達に任せて、私は部屋を後にした。
「おう! ここにいたか義弟!」
廊下の向こうからホーセンが大股でやってきた。
その後ろには父上がついてきている。
盛り上がる二人をとりあえず放置したのだが、向こうから追いかけてきた。
「どうしたの?」
「なんかよ、星がみえるんだよ」
「星?」
私は窓の外を見た。
よく晴れた昼下がり、今でも影が短いままだ。
「今昼間だよ?」
「アレクの言うとおりだが、それでも見える程の星なのだ」
父上が真顔で言った。
ホーセンだけなら「酔っ払ってるんじゃ?」って大酒飲みの勘違いを疑う所なのだが、父上までそう言うのなら気になる。
「どっちの空?」
「おう、ついて来い」
ホーセンが親指をぐいっとやって、身を翻して大股で歩き出した。
それについていって、父上も当たり前のように一緒についてきた。
「そういえば」
「おう、なんだ」
「星が見えるのはいいけど、なんでそれを僕に?」
ホーセンと父上の両方を交互に見た。
歩き出してから気づいたが、例え真っ昼間に星が見えたとして、それを私に知らせる必要が二人にはない。
なのでそれが気になったが。
「なに言ってんだ義弟、真っ昼間からあの輝きだぜ? ありゃ絶対何か起きる前触れ」
「そしてそれが現われる程の何かが起きた場合、解決出来るのはアレクしかありえない」
「おう! つうかそれを見たいんだけどな」
「心して待て、きっとみられる」
「それもそうだな!」
父上とホーセン、二人はそんな事を言い合いなら、声を上げて笑い合った。
どうやら……私に通知してくるのは「当たり前」の事のようだ。
笑い合う二人、いつもの二人に微苦笑しつつ、廊下を抜けて玄関から外に出て、ぐるっと屋敷を回って反対側にやってきた。
そこで足を止めて、ホーセンが空を指さした。
「ほれ、アレだよ」
「……わっ、確かに明るい」
これは驚いた、ホーセンと父上が言った通り明るかった。
そうは言っても――とここに来るまで思っていたのだが、実際に見あげた空の星は明るかった。
たまに昼にも月が出る。
月は夜の時よりも控えめだが、それでも昼間の空ではっきりと見えるくらい明るい。
空に現われたその星はそういう時の月よりも明るかった。
小さい、が太陽に匹敵する位の輝きを放っている。
「なっ、明るいだろ」
「そうだね、これはびっくりだよ」
「さっき急に現われたのだアレク。こういう奇星が現われる時は大抵何かの前触れだ」
父上の言葉にはっきりと頷いて応じた。
歴史を紐解いていくと、確かにそういうことが多い。
何かがおきるのか……凶事じゃないといいな。
などと、そんな事を思っていると。
「あっ、流れた」
「え?」
ホーセンの言葉にびっくりして、再び空を見上げた。
小さいながらも太陽に匹敵するような輝きを放ってた星は、なんの前触れもなく尾を引いて流れ出した。
いきなりの明るい星、それが流れ星に。
ますます何かがおきそうな――と思ったが。
「こっちに来るぞ!」
「むっ!」
とっさに結界を張った。
流れ星が物理的な物でも、魔法的な物でも。
どっちであっても、防げるように対物・対魔の二重の結界を張った。
私達の周りだけじゃなく、屋敷にも。
あの中にはアンジェ達がいるから。
そっちにも及ぶくらいの障壁を張って、待ち構えていると。
流れ星はどんどん近づき――障壁をすり抜けてしまった!
「なっ!」
驚いて次の対処に頭を巡らせていると。
「初めまして! だよっ」
目の前に一人の少女が現われた。
歳は16くらい、気品の中に明るさを併せ持つタイプの少女。
その少女は――人間ではなかった。
「なんだお前は、体が透けてるぞ」
「幽霊、なのか?」
ホーセンと父上、二人は真顔で少女を見た。
少女は二人の事をまったく無視して、私だけを見つめて来た。
「アレクサンダー・カーライルだね」
「うん、そうだけど……キミは?」
「早く子供を作ってよ」
「いきなり現われてそれはどうかな。せめて分かるように説明してくれない?」
苦笑いしながら聞き返す。
「私幽霊、これから生まれ変わる予定の人間。だよ?」
「へえ」
「でね、あの世で審査してもらったら、SSランク? って言われたんだ」
「それはすごい」
中々ない事だよ、それは。
「すごいみたいだね。なんでも今回の一千万人の中でたった一人らしいんだよ。SSは」
「……そうなんだ」
今回の一千万人。
それは間違いなく、銀の厄災で解放された大量の魂の事だ。
つまり目の前の少女は、あの一千万人の中でもっとも善行を積んだ、1000万分の1の高ランク魂だ。
そう考えると、目の前の少女がすごいって思える様になってきた。
「どうしたいって聞かれて、次も人間で、って答えた。だよ」
なんかどっかで聞いた話だな。
「そしたらSSランクが人間に生まれる場合、一箇所しかないっていうんだよ」
「……それってもしかして」
「うん!」
少女は満面の笑顔で頷いた。
「あなたの子供として生まれるのがSSランクの人生らしいんだ。だよ」
「すげえ、すげえぞ義弟!」
「アレクの子供が世界でもっとも幸せな転生先か……当然だな!」
父上もホーセンも、二人して興奮気味に目を輝かせた。
あの一件で、あの世の審査を世界中の人が見えたおかげで(もちろん父上とホーセンも見た)、二人は「ランク」というのに納得しつつ、大いに興奮したのだった。




