01.善人、名付け親で人気者
よく晴れた昼下がり、屋敷の庭で、アンジェとミアとの三人でまったりくつろいでた。
女の子の二人がスイーツに舌鼓をうちつつきゃいきゃいしている横で、私は賢者の剣でのんびりと知識を引き出す――勉強をしていた。
のんびりした過ごしやすい時間だったが、長く続かなかった。
「義弟よ!!」
豪快の代名詞の様な男――ホーセン・チョーヒが正門から馬車を乗り込んできた。
馬車をこの屋敷の使用人に預けて、自分は大股でドカドカと向かってくる。
「何してるんだ義弟、子作りか」
ホーセンはアンジェとミアの二人をちらっと見て、そんな事を言った。
デリカシーという言葉とは無縁な、いきなりな物言いだった。
ホーセン・チョーヒ。
帝国最強の武人と名高く、典型的な豪傑タイプで、性格は奔放にして磊落。
「こんなところでする様な事じゃないよね」
「そうか? それもそっか」
竹を割った様な付き合いやすい性格だが、女の子達には少々どくな性格でもある。
その証拠に、ようやくなれて来たアンジェは微苦笑し、ミアは気圧されて若干怯えていた。
「もうちょっと声を落として、ミアが怯えてるよ」
「おおん? なんでえ、俺の事が怖いのか」
「うっ……」
「ホーセンが敵だったら怖くないんだろうけどね」
「なんだよそれは」
私が代わりに答えると、ホーセンはますます不思議そうになった。
「ミアは勇敢な子だからね、敵だったら果敢に立ち向かっていくけど」
そう言いつつ、カラミティとはじめてあった時のミアの事を思い出す。
あの時のミアはまさに勇敢の一言につきた。
「でも、ホーセンみたいな怖いけど敵じゃない人は苦手なんだよ」
「なるほど。わりいな、性格でよ」
「う、ううん……」
カラッとした性格のホーセン、ミアに謝った直後にはもうその事が頭にはない。
彼は私の方を向いて、まっすぐと――珍しくまっすぐと強い目で見つめてきた。
「実はな、義弟に頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ、義弟にしかできない事だ。一生のお願いだ!」
ホーセンの顔は真に迫っていた。
「一生のお願い」とやらを日替わりでする様な人も居るけど、ホーセンはそうじゃない。
初めてだし、言葉に重みがある。
本当に一生のお願いだ、って雰囲気がある。
自ずと私も気を引き締めた。
「わかった、僕で出来る事ならなんでも協力するよ」
「そうか! ありがとう義弟よ!」
ホーセンはがしっと私の肩を掴んだ。
肩に食い込む指の力の強さが、そのまま嬉しさに直結しているように感じた。
「おい! こっちこい!」
ホーセンが背後に向かって呼びかけると、彼が乗ってきた馬車を、屋敷の使用人がゆっくりと引いて、導いてきた。
どういう事なんだろうかと様子を見ていると、ホーセンは馬車に向かって行き、手を伸ばして馬車の中の人をおろした。
まだ誰か乗っていたのか。
使用人が用意した馬車用の踏み台を使って、一人、二人、三人と。
合計三人の美女を、馬車から降ろした。
三人はしずしずって感じでホーセンに連れられてきて、私の前で一列に並んだ。
意味が分からず、ホーセンに聞く。
「この人達は?」
「俺の側室だ」
「なるほど」
その事に疑問を持たなかった。
帝国の将軍で、最強の武人。
地位もあるし力もある豪傑タイプのホーセン。
そんな彼が美女の三人をまとめて自分の側室だと言っても驚くに値しない。
パワフルな上に地位のある男はモテるから、側室がこれの十倍いるといっても私は驚かない。
「初めまして、アレクサンダー・カーライルです。ホーセンにはいつもお世話になってます」
私は三人に挨拶した。
私にそうされて、三人はアワアワと慌てだした。
一方で、ホーセンは天を仰いで大笑いした。
「がっははは、そんなのいいぞ義弟」
「そうは行かないよ。僕の事を義弟って呼ぶなら、この人達は僕にとって兄嫁なんだから、挨拶はちゃんとしなきゃ」
「おおっ、そうか、さすが義弟だ」
「それよりもどうしてここに連れてきたの?」
それが一番の疑問だった。
今までホーセンはこの屋敷に奥さんを連れて来た事は一度も無い。
それが急に三人も。
「おう、実はな、この三人孕んでるんだよ」
「わあ!」
「おめでた……」
アンジェとミアが同時に反応した。
二人ともきらきらした眼で、ホーセンの三人の側室を見つめた。
「おめでとう、すごいね」
「がっははは、義弟のおかげだぞ。義弟が作ってくれた可能性に乗っかって、超強い子供を産ませるつもりだ」
「あー……」
なるほど、と思った。
最近は空前の子作り、出産ブームだ。
原因はビーレ魔法学校の一件で、それにホーセンも乗っかったというわけだ。
「で、ここから本題」
「うん」
気を引き締めて、ホーセンを見つめる。
彼の「一生のお願い」が来る。
「この三人のガキの名付け親になっちゃくれねえか」
「………………へ?」
予想外過ぎて、肩すかしを食らって、変な声が出た。
「な、名付け親?」
「ああ、義弟につけてもらいてえ。義弟がつけてくれたら、ガキどもすっげえガキに育つぜ、きっと」
「……ああ、なるほど」
ちょっとだけ、納得した。
私の名前、アレクサンダーもカーライル家の始祖、英雄アレクサンダーから来ている。
名前をつけるという事は、期待を名前に乗せて与えると言う意味でもある。
だから名前をつけるという行為は、ご褒美になる場合と、名誉になる場合がある。
皇族や貴族が、褒美に名前をつける事は珍しくない。
場合によっては広大な領地よりも更にすごいご褒美だ。
逆に言えば、「名付け親になってくれ」と頼まれるのは名誉な事でもある。
前世ではそういう事が一切無かったから、ちょっと不思議な気分。
「なっ、頼むよ義弟。おい、お前らからもちゃんとお願いしろ」
「「「お願いします!!!」」」
三人の側室がぴったり声を揃えて、頭を下げてきた。
そこまで言われると断れないな。
とはいえ、いきなり言われてもどうつけたらいいのか困る。
私は少し考えてから。
「それって、うまれてからにしない?」
「うまれてから?」
「うん、男の子か女の子か分からないし、それに、ちゃんと名前をつけたいから、顔を見てからつけたいんだ」
「……」
ポカーン、となるホーセン。
まずかったか? と思っていたが。
「おおおおお!! さすが義弟だ!!!」
なんと男泣きをし出した。
「ありがてえ、ありがてえぞ義弟!!」
「「「ありがとうございます!!!」」」
ホーセン夫妻はかなりの勢いで感激していた。
責任重大だし、アンジェもミアも困ってるし、まずはこの場をどうにかおさめなければ。
そう思っていたら。
「アレクにホーセンじゃないか。何をしてるんだ?」
「父上」
「おう、おめえか」
外から戻ってきた父上が、屋敷の方じゃなくて一直線にこっちに向かってきた。
ちなみに男泣きしていたホーセンの涙はピタッと止まった。
こういう豪傑タイプは感情の振れ幅も大きければ、ブレーキも高性能だ。
「お帰りなさい父上。その手に持っているものは?」
「ああ、ローズ侯爵からの書状だ」
「ローズ侯爵、ですか」
「アレク宛てにだ」
「僕ですか?」
「なんでも、アレクに生まれてくる子供の名付け親になって欲しいという事らしい」
「がっははは」
ホーセンが天を仰いで大笑いした。
「めざといじゃねえかローズのやろう」
「いや、私はそうは思わない」
「何でだよ」
ホーセンは笑うのをやめて、真顔で父上を見た。
「アレクに名付け親になって欲しいと思うものは世の中にごまんといる」
そんないないだろ――。
「そりゃそうだ」
……ホーセンは当たり前の事の様に頷いた。
「そう思うのは当たり前、なんら突飛な発想ではない。むしろこの場合、頼んでくる勇気が素晴しい」
「おお! そりゃそうだ!」
ホーセンはポン、と手を叩いた。
父上とホーセン、二人のいつものアレが始まった。
これが始まるとキリがないので、私は手招きでメイドを呼んで、体を冷やさないようにと、ホーセンの側室達を屋敷の中に案内した。




