表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/198

10.善人、黄金の時代を作り出す

 天も地も無いような空間だが、感覚的に空を見上げた。


 昇天していく魂は次第に川の流れのように一つに集まっていき、その集まった物がやがて鳥の様な形を成していく。

 白い魂の鳥が、神々しく羽ばたいて空に消えて行く。


 幻想的な光景だった。


 と思った瞬間視界がぶれた。

 目の奥がちくりと痛む。

 次の瞬間、見えてるものがまたしても一変。


「こ、ここは!」


 目を疑った。

 目の前にうつったのはあの世。

 前に死んだ時、最後の審判を受けたあの世だ。


 あの時も長蛇の列だったのが、それよりも遥かに列が長く、ごった返しになっている。

 いや、それよりも。


「私は死んだのか?」


 なんで? と思ったがどうやらそうじゃないようだ。

 天使が一人こっちにつかつかと向かってきて、ぶつかる! って思った直後に私の体をすり抜けていった。


 驚いた。周りで並んでいる人達に触れてみようとしたが、触れなかった。

 自分の手を見る、半透明でうっすらと向こうが透き通って見える。


 どうやら、普通にここに来たって訳じゃないようだ。

 ならどうして?


 そう思っていると、会話が耳に飛び込んできて、意識がそっちに持って行かれた。


「審査終わりました、次の人生はAランク。才能を持っているのと、恵まれた環境で生まれるの、どっちがいいですか?」

「才能で!」

「Bランクですね、ちょっといいところに生まれますよ。良い人生を」

「やった!」

数百年耐え続けた(、、、、、、、、)加算込みでAですね、何か希望はありますか」

「楽に、タナボタで楽できる人生がいい」


 審査する側とされる側、両方のやりとりが聞こえてきた。

 私が実際にやってきたときと違って、ほとんどの審査がAとかBとかでゆるゆるだった。


 こんなに高ランクばかりじゃないだろ、と、私は苦笑いした。


 更に視界がぶれて、目の奥がちくり。

 すると、またまた目の前の景色が一変。


 今度は元の場所。

 ビーレ魔法学校、みんなの前に戻ってきた


 今の幻覚(、、)はなんだったんだろうか、なんて思っていると。


「「「………………」」」


 その場にいたものたち。

 教職員に生徒達、それらが全員、ポカーンとしていた。


「どうしたの?」


 聞くがこっちに反応しない。

 しばらくしてから、水を打ったかのようにみんなざわざわし出して。


「今の見たか?」

「みたみた、あれが最後の審判か?」

「それよりも気になる事言ってたぞ? 数百年の我慢がどうとか」

「え?」


 ざわざわの内容を聞いて、驚く私。

 記憶を辿る、確かにそんなやりとりがあった。


「つまり……今解放した大量の魂が、これから高ランクで生まれてくるってことか?」


 誰がかつぶやいた一言に反応して、その場にいたもの達が更にざわつくのだった。


     ☆


 帝都、王宮。

 謁見の間に呼び出された私は、皇帝エリザベートと対面していた。


 帝服(、、)を纏い、玉座に座るエリザに、私は正式な作法に則って一礼した。


「アレクサンダー・カーライル、召喚に応じ参上いたしました」

「面を上げよ、カーライル卿」

「ありがとうございます。それで陛下、今日はどんなご用なんですか?」

「話は聞いた、そして噂も聞いた」

「話と噂、ですか」


 エリザが鷹揚にうなずく。


「イーサンそしてジャック、二人の校長から話を聞いた。帝国の、いや世界の危機を未然に防いでくれたな。さすが帝国が誇る副帝カーライルだ。わが帝国の守護神だ」

「お褒めに与り恐縮です」


 この流れは予想していた。

 イーサンからの依頼で、ハーシェルの術という歴史に残る程の危険なものを解決したんだから、公式の場でほめられるのは予想してた。


 そっちは(、、、、)してた、が。


「それで噂って、なんの事ですか?」

あれ(、、)は、全世界のほぼ全ての人間に見えたらしい」

「……」


 あれ。


 曖昧な言い回しだが、心当たりは一つしかない。

 白い鳥が飛んでいき、最後の審判の光景が見えた、あれ。

 私が見えて、ビーレ魔法学校の教職員と生徒達が見えて、シャオメイも見えていた。


 それだけじゃない、世界中の人間に、あの一瞬起きていた人間の全てに見えたという。


「余も、見た」


 エリザもだった。


「ただの幻覚かもしれません」

「真実味、いや真実なのは実際に目にしたものなら体感していよう」

「……」


 それはそうかもしれない。


「少なくとも、見たものの大半はそれが真実だと思った」

「なるほど」

「それが引き金になったという」


 伝聞形で話すエリザ。

 ここからが噂の内容か。


「今、巷では空前の子作りブームだそうだ。いま子を成せば、才能の高い子が産まれてくる可能性がきわめて高い、という理由でな。

大半の人間が見たそれを、民は神のお告げだと言っているらしい。子を成すなら今をおいて他はない、とな」


 そんな事になっていたのか。


「これはカーライル卿、そなたの偉業だ」


 エリザは玉座から立ち上がり、私に向かってきた。


 謁見の間にいた他の大臣、兵士らが同時に「おお」と感嘆する。


 皇帝が帝服(権威)を纏っている時はみだりに動いたりしないもの。

 泰然と――どーんと構えていなきゃならないものだ。


 動く時はその権威を行使する時。


 普通は玉座から動かないはずの皇帝が、わざわざ降りてきて、私に向かってきた。

 私は自然とひざまずき、頭をたれた。

 エリザは何かしたがっている、私は彼女の好きにさせてやりたい。


 だから自然とひざまづいた。


 エリザは私の前に足をとめ、そっと頭に手を乗せてきた。


「才能は国を強くする、卿は国に『未来』を、輝かしい未来を産み出してくれた」

「恐縮です」

「帝国皇帝、エリザベート・シー・フォーサイズの名において宣言する。アレクサンダー・カーライルに――」


 エリザはそこで一呼吸開けて、すぅと息を吸って、はっきりと宣言した。


「国父、帝国の父の称号を授ける」

「「「おおおおお!!」」」


 周りから歓声が上がった。

 私はびっくりした、まさかまさかのだいそれた称号だ。


「……ありがたき幸せ」


 私は微苦笑しつつも、エリザがしたいそれ、称号を受け取った。


 こうして、私は。

 副帝の上に、更に国父という称号をもらい受けた。


     ☆


 「神のお告げ」が真実であり、しばらくの間生まれてくる子供達がそれまでに比べて才能が高いことが次第に知れ渡って行く。


 それを帝国が正しく事実を広めた。


 銀の厄災から黄金の時代へ導いた、国父アレクサンダー・カーライル。


 それが知れ渡り、やがて歴史書にもはっきりと記される様になるのだが。

 それはまた、少し先の話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ