08.善人、天使の代わりに救済する
「肉体だけならね」
「に、肉体だけなら?」
「そう、肉体だけなら、魔力が足りてれば作れる。特に難しい条件もない」
これは本当だ。
賢者の剣から聞き出した知識がそうだった。
肉体は簡単に作れる、問題は魂だ。
魂を一から作り出すとなると、神以上の、創造神クラスの力がいる。
逆に肉体だけなら神や天使達が日常的にしてる。
天使や神の肉体なら相応の力がいるけどね。
ふと前世で生まれ変わる時、最後の審判の時、複数の天使が集まって何かこそこそ言い合ってたのを思い出した。
あの時SSSランクで神になると受け入れてたら、その天使達が力を合わせて私の神としての肉体を作ったんだろうな。と思った。
まあそれはともかく。
「現にこうして作ったしね」
「そんな……無理ですよ、だってこの魔力の強さ……」
まだ信じられないって顔をするシャオメイ。
強さ? ああそうか。
作ったばかりの肉体、まだ力が定着しきってない上に、余剰分の力が漏れてるんだな。
シャオメイは信じられないでいたが、とは言え作ったのは事実なので、これ以上何も言えることはない。
「ありがとうございます」
一方で、天使の肉体に戻ったマルコシアスは私の前に着陸してきて、うやうやと頭を下げた。
「あなたのおかげで助かりました」
「もう大丈夫なの?」
「はい。あなたは私の命の恩人、いえ二度目の人生を与えて下さった親にも等しい存在です」
「そんな大層な事をしてないよ。でももう大丈夫なら良かった」
「ありがとうございます」
もう一度穏やかに、しかしきっぱりとした口調で、頭を下げるマルコシアス。
「さて、後はこの魔法学校にいる教職員と生徒達を見つけて助ける事だね。もうこの世にいない――」
いったん言葉を切って、マルコシアスを。
場合によっては彼を人間の肉体に入れるための生け贄になったかも知れない可能性が頭をよぎって。
魔法学校に来てしばらくたつが、散発的にしか人間と出会えてない。
最悪――という想像が頭をよぎった。
「――なんて事はないよね」
「大丈夫です。みな、あるべき姿に戻っただけです」
「あるべき姿?」
「モンスターの魂も、モンスターの肉体も、今は異界にいます」
「異界」
おうむ返しでその言葉をつぶやきつつ、賢者の剣に聞く。
「はい、この魔法学校は召喚術を重点に学んでいる所です。今回のハーシェルの術に使われたモンスターは、全て召喚されたものです。そして召喚されたモンスターは終われば異界に自動で呼び戻されます」
マルコシアスの説明と、同時に賢者の剣に聞いて、返ってきた答えと同じだった。
リアルタイム答えあわせをしつつ、マルコシアスとの話を続ける。
「そうか、だからほとんど人間ともモンスターともなかなか会えなかったんだ。たまにあったのははぐれなんだね」
「そういうことです」
「ということは召喚すればいいんだね」
「はい、お時間を下さい。三日もあれば全員分召喚は出来ます」
「三日? 一人――いや、二人ずつ召喚していったらそれくらい掛かるのか?」
「いえ、数が問題で。この学校の教職員と生徒、それを全員召喚するには三日は。それに対応してる人間とモンスターを選別して一緒に出さねば戻すのも……」
「そういうことなら大丈夫だよ」
「え?」
賢者の剣に聞くまでもない、召喚術はかなり簡単なものだ。
学生でも出来る事だから、当たり前だ。
もうちょっと幼い頃に一通りおさらいした基本の中でそれを覚えている。
魔力を高め、足元に魔法陣を展開。
この魔法学校と関わりのあるモンスターと人間の全てを対象に。
全部召喚した。
それまで私とシャオメイとマルコシアスの三人しかいなかったそこに、人間とモンスターがうじゃうじゃ出てきた。
「きゃっ!」
「な、なにを」
驚く二人。
間髪入れず、対象をロックオン。
人間の方を全員ロックオンして、魔力球で撃ち抜いた。
魂が入れ替わった人間、それが倒された数だけモンスターも消えて、やがて残ったのは、撃ち抜かれたはずの人間だけ。
人間が大勢、全員気を失って地面に倒れていた。
戻った直後は気を失う、既に知ってる事だから気にしなかった。
振り向き、マルコシアスに言う。
「これで解決だね」
「……」
シャオメイに続き、マルコシアスも言葉を失ってポカーンとなった。




