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06.善人、一回目の変身をする

「ば、馬鹿な! マルコシアス! 立てマルコシアス!」


 老人は空中はりつけのまま、取り乱して叫んだ。

 天使マルコシアスが入っていた人間はうつ伏せになって倒れたまま、次第に薄まって消えた。


「これは……あの人の時と同じ?」

「そうだねシャオメイ。天使の魂は元の居場所に戻っていったんだね」

「ばかな! 倒したというのか! そんな事はありえん。何をした小僧!」

「ナイリーをしかけてきたのはそっちじゃない」


 私は苦笑いした。


「馬鹿な……あれを力押しで倒したというのか? 馬鹿な……」

「よっぽどショックなんですね……」


 シャオメイは老人に同情した。

 それほどまでに、老人はショックを受けたように見えた。


 その老人は放っておいた。

 さっきのやりとりで分かった、まともに会話が出来るような相手じゃない。


「それよりも……アレクサンダー様」

「うん、それよりも、だね」


 私とシャオメイは頷き合って、同時に目の前に現われた中年の紳士っぽい男を見た。

 メガネ越しにみて分かる。

 人間の肉体、老人が押し込んだ器から解放された、天使マルコシアスだ。


 マルコシアスは、呆然とした様子で立っていた。


「僕の事がわかる?」

「……」


 呼びかけるが反応はない。


「マルコシアス?」

「……」

「どうしたんでしょう、まだ戻りきってないのでしょうか」

「うーん……どうしたんだろうね」


 目の前の相手は間違いなくマルコシアス、なのに反応はない。

 それがどういう事なのかと考えていると。


 マルコシアスに異変が起きた。

 いきなり苦しみだして、喉をかきむしる。


 うずくまって苦しむマルコシアスに、シャオメイが近づいていく。


「天使様……?」

「危ないシャオメイ!」


 マルコシアスの動きが一瞬止まった。

 その瞬間、私はゾクッとした。


 考えるよりも先に体が動いた。


 シャオメイとマルコシアスの間に飛び込んで、何が起きてもいいように賢者の剣を構える。


 うずくまった状態から起き上がるマルコシアス、ゆっくりと顔を上げると、目が異様な光を放っていた。


 事態は更に急変する。

 マルコシアスの体が光になった。

 それまで人の姿だったのが光になって、ものすごいスピードで明後日の方向に飛んでいった。


「ど、どうしたんでしょう」

「……分からない、でもいい予感はしないね」

「ふ、ふふふ……」


 老人が笑った。


「何がおかしいの?」

「やってしまったな、小僧」

「なんだって?」

「何故、天使の魂を人間の肉体に入れたと思う?」

「強くするためだからでしょう?」


 何を今更――いや!


「もう、遅い」

「くっ!」


 私は飛び出した。

 飛行魔法を使って、シャオメイを連れて飛んで、マルコシアスの後を追いかけた。


「どうしたんですかアレクサンダー様」

「ハーシェルの秘法、それは高ランクの魂が低ランクの肉体に入れる事で強くするというものなんだけど、もっと詳しい条件があったんだ」

「詳しい条件?」

「魂と肉体のランクの差が大きければ大きいほど力が強くなる。格差が強くするものなんだ」

「格差……あっ、今この魔法学校にモンスターが大勢います!」

「うん、人間よりもきっとモンスターに入れた方が強くなる。それに」

「そ、それに?」


 まだあるのか? って顔をするシャオメイ。


「あのおじいさんは『やってしまったな』っていった。つまりそれは僕たちじゃなくて、おじいさんにとっても都合の悪いことなんだ。多分、すごく都合が悪い」

「……」


 ごくり、とシャオメイの喉がなる音が聞こえた。


 私は飛んだ、速度をさらに上げた。


「いた!」


 校舎の建物をいくつも飛び越えて、小さな池とうっそうとした林を飛び越えたあと、地上にマルコシアスの姿を見つけた。


 いや、マルコシアスの魂が入ったモンスターだ。


 シャオメイと一緒に着陸する。

 彼女は私にしがみついてきた。


「ピ、ピリングス……」


 目の前にいたのはふわふわとした白い毛玉のようなもので、頭体兼用の毛玉から可愛らしい手足が伸びていて、細い手がこん棒を持っている。


 ピリングスという、弱いことと可愛いことで知られているモンスターだ。


 弱いことは、今は逆に恐怖の対象に変わる。


 ピリングスは飛びかかってきて、こん棒を振り下ろす。


 賢者の剣をかざして受け止める。


 ビシッ!


 受け止めた私の足元、地面が割れた。

 地面が割れて、落下する私とシャオメイ。


「きゃあああ!」

「つかまっててシャオメイ!」


 飛行魔法を使って飛び上がる、地面を飛び越えて空中に上がったが、ピリングスは更に襲いかかってきた。

 ゴムボールがバウンドするかのように、ものすごい跳躍力を見せて、肉薄してこん棒で殴り掛かってくる。


 賢者の剣で打ち合う。


 ガキーン!


 拮抗したパワー、衝撃波が飛び散る。


「そ、空が割れた……」


 腕の中で驚愕するシャオメイ。

 マルコシアスの魂が入ったピリングスは紛れもなく強い、人間の姿だったときよりも数倍強い。


「は……ああああ!」


 受け止めてからの力比べ。

 グッと賢者の剣を握り締め、全力でピリングスを弾き飛ばす。


 ピリングスは地上に叩き落とされ、私達も着地した。


 ピリングスが着地したすぐ近くに、人間が二人いた。

 低ランクの魂、モンスターの魂が入った人間だ。


 それを、ピリングスは躊躇なくこん棒をふるって、瞬殺した。

 ピリングス=マルコシアス。


「見境がないね」

「り、理性は無いのでしょうか」

「あのおじいさんがいう『やってしまったな』はこれの事なのかも知れないね」

「あ……」

「シャオメイは少し離れてて」

「だ、大丈夫なのですかアレクサンダー様」

「大丈夫、何があってもあれをこの魔法学校から出さないから」


 この魔法学校内にいる内はまだいい。

 多分教職員や生徒達は全員、モンスターと魂を入れ替えてて、倒す=助けるになる。


 だけどここから出たら多分その先に待ってるのは大虐殺。

 理性を失ったピリングス=マルコシアスの大虐殺だ。

 何故天使を人間にいれたか。老人が言ったそれは、モンスターの体じゃ制御が出来ないからだったんだ。


 もともと悪魔にされるほどの罰を受けているマルコシアス、制御不可で暴れ回るなんて事になったら、次の最後の審判でますます良くない結果になる。


 だから、ここで止める。


 ピリングスが突進してきた。


 こん棒と打ち合う、力の流れを変えて真上にぶっ飛ばす。


 ものすごい勢いで上に飛んでいくピリングス、あの勢いだと1000メートル上空まで行くはずだ。

 落ちてくるまで、少し時間がある。


 私は賢者の剣を地面に突き立てた。

 目の前の地面に魔法をかける、地面がうごめく。


「何をするのですかアレクサンダー様」

「そうだね――」


 私はそれにあう言葉を探しつつ、魔法を続ける。

 土を素材にした簡単な人形、ホムンクルスを作った。


 そして、賢者の剣から聞いたハーシェルの秘法を使う。

 自分の魂を、ホムンクルス――今の肉体よりもランクの低い一時的な肉体にうつす。


 一連の事をポカーンとした顔で見たシャオメイに。


「――変身かな」


 といった。


「……わああ!」


 シャオメイは、尊敬するような感動するような、そんな顔で私のやりたいことを理解した。

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