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05.善人、Sランクの相手に楽勝する

 拘束して、空中ではりつけ(、、、、)にしたのは、ローブをまとった老人だった。

 老人は大の字にされて浮かんでいる。

 両手両足に光の輪っかがそれぞれ二重でくくりつけられている。


 念入りの拘束、アスタロトとか――神であろうと抜けないし動けないレベルの拘束だ。


 魔法も当然封じ込めてから、老人に改めて聞いた。


「おじいさんが事件の首謀者?」

「ふ、ふふ、ふははははは」


 老人は答えず、高笑いした。

 頭も拘束・固定しているのでなければ、天を仰いで大笑いした所だろう。


「あ、アレクサンダー様」

「大丈夫だよシャオメイ、油断はしてない。物理、魔法、呪い、結界、召喚。あらゆる可能性に対処している。この人に出来るのはもう喋る事だけ」


 シャオメイに安心させるように言いながらも、私は更に念入りに老人を拘束した。

 あらゆる可能性に先回りしてつぶす、話を聞くから喋らせるようにしているが、それ以外すべてを封じ込める。


「小僧、勝ったと思ったな?」

「僕の質問にまず答えて、おじいさんが今回の事件の首謀者?」

「一足遅かったな、貴族と見えるその上質な魂をもらい受ければさらなる戦力になったであろう。だが、これまでの分で十分事足りる」

「会話になってないね」

「我が事なれり」


 一方通行のやりとりの後、老人がにやりと笑った。


「アレクサンダー様! 向こうから人が!」


 シャオメイが切羽詰まった声を出した。

 彼女の視線を追って反対側を向くと、一人の青年の姿が見えた。

 青年はゆっくりと、無造作な足取りでこっちに向かってくる。


 人間でもなければ、死者でもない。

 意志を感じない、例えるのなら夢遊病の様な歩き方。


「人間……に見えるだけだよね、きっと」

「はい、またモンスターでしょうか」

「だったら倒すまでだよ」

「ふ、ふふ、ふははははは」


 老人がまた高笑いした。


「何がおかしいの?」

「小僧でも天使は知っていよう?」

「相変わらず会話が成立しないね」

「この魔法学校の地には悪魔が一体封印されていた。マルコシアス、という名の悪魔だ。ふふ、愚かな人間ども、その悪魔が元々天使であったことも知らずに」

「……」


 いや、知ってるけど。

 向こうの魔法学校にいたアザゼルもそうだった。

 元天使だったが、何かの事情で悪魔に堕とされた。


 賢者の剣にはそれの答えはなかったが、もしかしたら世界中のあらゆる魂は全部同じものなのかも知れない。

 ランクが上がったり下がったり、善行を極めて神になっても何かの拍子で悪魔に堕とされたりするし。


 おっと、それよりも今は目の前の事だ。

 そうか、ここの魔法学校にもいたのか、元天使の悪魔。


「神の魂は用意できなかった、が、元天使ならばそこら中にある。帝国に感謝だなあ!」


 更に昂ぶり、声が一オクターブ上がる老人。


「その天使を再生し、人の肉体に押し込めることに成功した。見ろ!」


 空中で大の字にはり付けにされている老人。

 そのテンションから、まるで自から両手を広げて、何かを誇示する仕草に見えてしまった。


「あれは人であって人ではない、天使であったが天使を超越した存在」


 未だに、ゆっくりと歩きながら近づいてくる青年を見た。

 ずっとかけたままの眼鏡越しに彼の魂を見た。


 老人の言うとおり、高いランクの魂、間違いなく天使の魂だ。


 悪魔に堕とされている時は低ランクの魂になってるはずだが、私がアザゼルやアスタロトにしたように、何らかの形で魂を天使に戻したんだな。


「これこそハーシェルの秘法の完成形、人の肉体に超越者の魂を入れたものだ」


 それまで昂ぶった口調で、演説のように話していた老人が、初めて私の方を見て、私に話しかけてきた。


「わしから情報を引き出そうとして口を自由にしたのが仇となったな小僧! マルコシアス!」


 老人が叫ぶと、青年がビクッとして、いったん足を止めた。


「ナイリーの陣だ。そいつらを血祭りにして、決起ののろしにせい!」

「アレクサンダー様!」

「――――!」


 天使の魂が入った青年は天を仰いで咆哮した。

 人間でもモンスターでもない、初めて聞くような声。


 天使を越えた力だけあって、咆吼だけでも威圧感を放ってきた。


 それに威圧されたシャオメイは悲鳴を上げる事も出来ずに、へたり込んで茫然自失となってしまった。


 次の瞬間、世界が歪む。

 超越天使・マルコシアスから放たれた力が私を包み、捉えた。


「動けまい。安心しろ、苦しみなどない。一瞬で終わる」


 勝ち誇った老人。

 私は賢者の剣に「ナイリーの陣」の事を聞いた。


 ナイリーの陣とは、格下(、、)の相手を確実に葬るための戦い方。

 互いに魂レベルでロックし合って、生命力と魔力をぶつけ合うもの。


 綱引きの様なもので、純粋に力の比べあい。

 特殊なのは、一度発動したらどっちかが死ぬまで解除されないし、互いに動けなくなること。


 はっきりと格下の相手を圧倒的な力でねじ伏せる技法だ。


 それを全て理解した次の瞬間、力が迫ってきた。

 全身に圧をかけてくるような、力の奔流。

 これがマルコシアスの力、確かに、今まであったどんな相手よりも強い。

 天使のアザゼルよりも神のアスタロトよりも。


 ハーシェルの秘法で人間の肉体に入れられた天使の超越した力だ。


 老人は勝ち誇った。

 次の瞬間、ごふっ! とマルコシアスが血を吐いて、ふらついて、そのまま倒れ込んだ。

 ナイリーの陣の結果、私は無傷で、相手が絶命した。


「………………は?」


 直前まで勝ち誇っていた老人は、何が起きたのかわからない顔をした。

 倒れたマルコシアスと私を交互に見比べ、唖然としてしまう。


「残念だけど、天使じゃ僕に勝てないよ」

「なっ――」


 こっちはSSSランクで、神になる事もできた人間。

 純粋な力比べなら、天使が入った人間に負けることはないのだ。

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