10.善人、呪いでモンスターを無害化する
ザクッ! と、グールの体を袈裟懸けに両断する。
人食いのモンスターが倒れて、ピクリとも動かなくなる。
その死体に魔法をかける。
魔法陣が広がって、グールを包み込んで行く。
「やるじゃない」
「エリザ、それにアンジェまで。どうしてここに?」
エリザとアンジェ、二人は連れだって現われた。
モンスター掃討のために山に入った私に追いついてきた二人。
「ごめんなさいアレク様」
「あんな飛び出し方をしたら何があったのか気になるでしょ? それにしても……」
エリザは倒したばかりの、魔法陣に包まれたグールを見た。
「これグールだよね、あたしが知ってるヤツの倍近く大きいんだけど」
「私もです。アレク様と洞窟で見た時は半分くらいでした」
「それをあっさり倒したのはさすがだけど。なにがあったの?」
「僕の魔力、あの温泉が女の人を綺麗にするみたいに、山に溶け出した魔力を受けてパワーアップしたらしいんだ」
「それで下にいる連中がボロボロだったのね」
頷く私。
エリザ達もあの警備隊と遭遇してたのか。
「で、どうするの? 全滅してはい終わりでいい?」
「うーん、そうも行かないだろうね。モンスターは生まれる場所には継続的に生まれてくるし、強くなったのは僕の魔力のせいで、その温泉の効果を今更無くすのも悲しいしね」
「あたしがなんとかしようか?」
「エリザが?」
どうするんだろうか、と彼女を見る。
「皇帝が温泉を気に入ってここを天領化すれば、親衛軍の一部を配置できるからモンスターはどうとでもなるわよ」
「なるほど」
「べ、別にアレクのためとかじゃなくて。せっかく美人になる効果の温泉だしもったいないだけよ」
何故かいい訳じみた台詞を口走るエリザ。
皇帝とは言えやっぱり女性、美しくなる温泉の効果は捨てがたいーーのか?
「ど、どうする? アレクがそうした方がいいって言うのなら、すぐにやらせるけど」
「やめようよ、それは」
「どうして?」
「美人温泉が出来たそばから天領化するのは、皇帝陛下にわるい噂が立つ。エリザは綺麗でいてほしい」
「……」
驚くエリザ、驚きだけで顔を赤くしないのは「綺麗」の意味を正しく受け取っているからだ。
エリザの父親、前皇帝は暴君と悪名高い人だった。
私はエリザの理想を聞いている。
彼女には出来る限り、綺麗な皇帝でいてほしいと思う。
美人になる温泉を天領化するのは、女の皇帝であるエリザを考えれば微笑ましいのかも知れないが、よくはない。
「分かったわ。それはやらない」
今も魔法陣に包まれているグールの横で、エリザは真顔で頷いた。
「お姉様、大丈夫ですよ」
「どういう事かしらアンジェ」
「だってもうアレク様が動いてますから。アレク様が動き出してるのなら不可能な事は何もないです」
アンジェよ、おおアンジェよ。
君はなぜこうも父上達に毒されたのか。
「もっともね」
そしてエリザ、君もだ。
「悪かったわアレク、しゃしゃり出てしまって」
「ううん、それはいいんだけどね」
エリザとアンジェ、二人の目が輝きだしたのが分かった。
「モンスター連中をどうするのかしら」
「二人には悪いけど……」
「え?」
「もう、終わってるんだ」
「「えっ?」」
声を揃える二人。
「終わってるって、どういう事?」
「あれ」
私は魔法陣を指さす。
さっきからずっと魔法陣に包まれているグールの死体がそこにあった。
「あれって……ただの死体じゃない」
「……お姉様、違います!」
「違うって、なにが?」
「魔法陣にモンスターがずっといます。アレク様がモンスター一体倒すだけならこんなに時間はいりません」
「あっ……」
アンジェに気づかされるエリザ、彼女は魔法陣を見て、それから私を見た。
「何をしてたの?」
「魔法……ううん、おまじないの方かな」
「おまじない……呪術なの?」
「そっちに近いね。このグールを通して、山でこれから発生するグール全体に一つ特性を仕込んでみたんだ」
「特性?」
「うん――あっ、ほら」
離れた所を指さす。
地面がぼっこりと膨らみ上がって、そこから一体のグールが現われた。
まさに今生まれたばかりの、新しいグールだ。
それが私たちを見つけて襲いかかってくるが――。
「寿命をね、極端に短くしたんだ。パワーを更に上げた代わりに寿命が三秒くらいしか持たないようにしたの。山の中にしか生まれないし三秒だけなら大丈夫だよね」
「なるほど! さすがアレク様!」
「そんなのもできたの……」
アンジェは順調に父上化して私を褒め称えるが、エリザはあんぐりと口を開け放ってしまった。




