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06.善人、食人山脈を破壊する

 賢者の剣を振り抜き、男を胴から真っ二つにした。

 男は地面に崩れ落ちた。

 直前まで人間の形をしていたそれは、どろりと溶けて、地面に吸い込まれていくように消えて亡くなった。


「き、消えました! どういう事ですかアレク様」

「多分……」


 私は髪の毛を数本引き抜いて、地面に落とした。

 ひらひらと舞う髪の毛が地面に触れた途端、じゅわっ……と音を立てて溶けてしまった。


「溶けました! えええ!?」

「やっぱりそうだ。食虫植物って知ってる? アンジェ」

「はい、虫を捕らえて溶かして消化する……あっ!」

「そう、ここはそれと似たようなもの。食虫植物ならぬ食人洞窟みたいなものだよ。あれ見て」

「あれは……ミノタウロスの死体。一緒に落ちてきたんですね」

「あれ溶けてないでしょ、人間しか食べないんだよ、この洞窟は」


 状況が変わったので、新しく得た状況を元に賢者の石に聞いた。

 それで判明したのが食人洞窟。

 洞窟そのものが生き物の様になってて、迷い込んだ人間だけを消化して食べるという恐ろしいものだった。


「そうだったんです……あっ、じゃあ早く脱出しなきゃ」

「そうだね。行こうかアンジェ」

「はい! あっ、アレク様!」

「どうしたの?」

「あそこ! あそこに人が!」


 アンジェが指さした先に牢屋の様なものがあった。

 近づくと、柵の向こうに人が捉えられていた。

 美しい女性だ、服がボロボロで、なまめかしい姿で牢の中にとらわれている。


 さっきまでなかった(、、、、、、、、、)そこにアンジェが近づいていき、柵越しに声をかけた。


「大丈夫ですか!?」

「う……ん。ここは……はっ」


 美女がぼんやりと周りを見た後、ハッとしてこっちに視線を向けてきた。


「人!? た、助けてください! 山の中で足を滑らせてしまって、気づいたらここにいたんです!」


 美女は必死な形相で助けを求めてきた。


「お願いします! なんでもしますから!」

「アレク様!」

「……」


 私はスタスタと近づき、アンジェの前に出る。

 そのまま無言で賢者の剣を振った


 柵ごと、その向こうにいる女を両断する。


「アレク様!?」

「ここに女の人がいるのはおかしいよ。僕達が入って来た時に結界があったのを覚えてる?」

「あっ、アレク様が破って張り直した……」

「そう。だから誰かがいるのはおかしい。それにイタズラの話はあったけど、女の人が失踪したという話はなかった。人が失踪してたら僕にそれを探してくれってお願いが来たはずなんだ」

「確かにそうです!」

「それに、この人服がボロボロだった。あんなにボロボロになってたら地面に接してる肌から溶かされてたはずだよ。多分、助けてくれたお礼にって、僕に色仕掛けをするつもりだったんじゃないかな」

「……くそっ!」


 両断された女が悪態をついて、溶ける様に消えてなくなった。

 さっきの男と同じ声。やっぱりこの洞窟そのものが作り出したダミー、いや釣り餌だ。


「あの……アレク様」

「どうしたんだい?」

「どうして色仕掛けをするんですか?」


 アンジェがキョトンと小首を傾げてきた。

 ……そりゃ、色仕掛けで成功したら私も服を脱いで、我を忘れて何時間かはここにとどまる事態になるかも知れないからなんだが、アンジェにそれを素直に答えるのは少し気が引ける。


「足止めをするためだね」


 私は適当にごまかした。


 しかし、危険な洞窟だ。

 さっきからずっとあの手この手で私たちの足止めをしてくる。


 多分これまでも同じことをずっとしてきたんだろう。

 迷い込んだ人間を惑わせて、溶かして喰らう。


 食人洞窟、か。


「アレク様? 早く外に出ましょう。足止めをするって事は、私たちは早く外に出た方がいいです」

「いや、ここは破壊しよう」

「は、破壊ですか?」

「うん。結界で封じればいいやって思ったけど。ここは危険だ。当初の話、小さなイタズラでおびき寄せてるのがいかにも危険。イタズラ程度ならそこまでじゃないって油断してしまう人も多いしね」

「た、確かに」

「さっきから見てるとここは演技も上手い、手段も多彩だね。放っておくとこの先犠牲者はどんどん現われるかも知れない。だから洞窟ごと破壊した方がいいと思う」

「そうですね! でもどうすればいいのでしょう。結構歩きましたし、二回落ちちゃいましたし。多分この洞窟、お屋敷よりも広い――ううん、陛下の宮殿よりも広いと思います」

「それなら大丈夫。アンジェ、僕にしっかり捕まってて」

「は、はい!」


 何が起きるのか分からないって顔だが、アンジェはいつも通り、素直に私の言うことを聞いてくれた。


 横にやってきて、私の腕に腕をからめて、ぎゅってしてくる。


 私は賢者の剣を地面に突き立てた。


「どうするんですか?」

「命の力をまとめて放出する。これ(、、)に弱いの分かってるから、一気に片をつける」

「なるほど!」

「じゃあ……いくよ」


 賢者の剣。

 魔力超伝導の性質を持つ、ヒヒイロカネ。

 それに魔力を注ぎ込んだ。


 SSSランクの魔力、それで賢者の石の命の力を増幅。


 癒やしの光が私たちを中心に広がる。


 足元から溶けていく、しがみついてくるアンジェごと、飛行魔法で浮く。


 光が爆発的に広まる、食人洞窟がその光に飲まれる。


 やがて――


「わ、わわ!? や、山が消えちゃいました!」


 この結果に私も驚いた。


 洞窟だけを消す命の力。

 それを遠慮無く出した結果――。


「まるで植物みたいにすごく根を張ってたみたいだね」


 食人洞窟だと思っていたのが、どうやら食人山脈だった。

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