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05.善人、名探偵になる

 首を切りおとされて、一呼吸遅れて崩れ落ちるミノタウロス。

 膝から崩れ、巨体がドシン! と音を立てて倒れた。


「すごい、すごいですアレク様!」

「……」

「アレク様? どうかしたんですか?」


 ミノタウロスの死体をじっと見つめる私の顔を、アンジェが訝しげにのぞき込んできた。


「弱いなって思って」

「アレク様が強いからです!」


 両拳を胸もとに構えて力説するアンジェ。

 私を信じ切ってくれるのは嬉しいが――。


 突如、地響きが鳴り渡る。

 地面が揺れ出した次の瞬間、足元から感触が消えた。

 床が崩落して、私もアンジェも、ミノタウロスの死体もろとも落下した。


「アンジェ!」


 とっさにアンジェを引き寄せ、抱きしめる。


「つかまってて」

「はい! アレク様!」


 彼女を抱きしめたまま、しばしの自由落下。


 遅れて追いかけてくる光の魔力球のわずかな明かりを頼りに、迫り来る地面に着陸した。

 落下の長さ分、足がジーン、としびれた。


「ふう……。大丈夫かい、アンジェ。怖がらせてごめんね」

「大丈夫です! アレク様に守られてましたから、全然怖くなかったです!」

「そうか」


 アンジェを下ろして立たせる。

 光の魔力球で周りを照らして、状況を確認。


 少し開けた空間、どこかの地下道みたいだが。

 自由落下でぐちゃぐちゃになったミノタウロスの死体以外何もなかった。


「ここは……何処なのでしょうか」

「わからない、でも結界が続いているし、この地下道みたいなのも自然のものじゃない。何かの地下ダンジョン、上の洞窟の続きかもしれないね」

「そうなんですか」

「ちょっと気になるから先に進もう」

「はい、ご一緒します!」


 アンジェと一緒に暗い地下道を進む。


「ちょっと暗すぎるね、もう少し明るく――」


 光の魔力球を増量しよう――と思った瞬間、光の死角から何かが襲ってきた。

 とっさに手の甲で――裏拳気味のパンチでなぎ払う。

 そいつは吹っ飛び、壁に当ってばらばらに砕けた。


「アレク様!?」

「大丈夫――向こうもまだまだ終わってないみたい」

「え?」


 驚くアンジェ。

 吹っ飛ばしたあと余裕が出来たから光の魔力球を二つ追加した。


 明るくなった地下道の中映し出したのは、地面でうごめき、ばらばらになったのを再生する肉塊の姿だった。

 アンジェが息を飲んだ。


 その姿を見つめ、観察する。

 ばらばらに砕けたそれが、やがて完全に再生して立ち上がる。

 大人の男くらいのサイズで、人型のモンスター。

 復元した後も体がところどころ腐ってて、頭に目も耳も鼻もなく、巨大な裂け目の口があるだけだ。


「こ、これは……」

「グール――人食いのゾンビだね。既に命も魂もなく、故にいくら破壊しても再生するやっかいなモンスター」

「グール……はじめて見ました。どうしましょう、アレク様が倒しても回復するなんて」

「グールは簡単だよ」


 背中の賢者の剣を抜き放って、音のない斬撃。

 肩から袈裟懸けに斬られたグールは崩れ落ちて……そのまま溶け落ちた。


「グールは命の力に弱いんだ」

「なるほど!」

「アンジェ、魔力は大丈夫? 回復魔法を薄く自分の体の周りに巡らせておけばバリアになるよ」

「あっ、はい! 分かりました」


 治癒魔法を得意とし、ずっとそれの練習をしてきたアンジェ。


 通常治癒魔法は「相手に向かって放出」するものだが、私とずっと一緒にいたアンジェは既に帝国屈指の回復術士。

 自分の体の周りに回復魔法を薄く張り巡らすなんて、本来なら無茶ぶりにも程があるオーダーにもあっさりとこたえた。


 アンジェの周りに薄く癒やしの光が包む。


「やりましたアレク様――ひゃん!」

「アンジェ!」


 本日二度目、足元の感覚が消えた。

 再びの自由落下、今度もアンジェを引き寄せてお姫様抱っこする。


「……」


 二度目の落下は短かった、着地しても足がしびれずにすんだ。


「ごめんなさいアレク様、何度も何度も」

「気にしないで、アンジェに怪我をされる方がよっぽど悲しいから」

「はい……アレク様! グールが!」

「団体さんのお出ましだね……それに黒幕も」

「え? ……あっ」


 私に言われて気づくアンジェ。

 五……いや六か。

 六体のグールが呻きながら近づいてくるその向こうで、一人の男が立っていた。


 姿は人間、しかし肌の色は青。

 普通の人間じゃないのははっきりしている。


「出たね、黒幕」

「えっと、アレク様、さっきから黒幕っていってるけど、もしかして」

「ミノタウロスを倒したときからずっと不思議だったんだ。あの程度のモンスターを封じるためにしては結界が強すぎるって。でも今ので分かった。結界は目の前の彼を封じるためのものだったんだ」

「時とは川の流れの如く、絶えず新たな波が前のものを呑み込んでゆく」



 グールの向こうにいる男が静かに口を開く。

 雰囲気のある、油断ならない相手みたいだ。


「ど、どういう意味ですか?」

「人間は進化し続ける、という事を表わす東の国のことわざだよ」

「おー……」


 感心するアンジェ、彼女はその意味をまだ本当に理解していない。

 目の前の男は、私が前の波――前人を呑み込む波だと持ち上げてきている。


 何のために――そうか。


「だが私はまだ死ねない、呑み込まれてそのまま消える程物わかりが良くない」

「あ、アレク様。なんか……この人……」


 アンジェは少し言葉が震えていた。

 男がただ者ではないというのを感じたみたいだ。


「相手が子供とて油断はしない、さあ来るがいい」

「……おじさん、演技が上手いね」

「……なに?」

「ここに直行してたら騙されるところだったよ」

「ど、どういう事ですかアレク様」

「彼の口車に乗って戦ってたら、いつの間にか時間切れで手遅れになっていただろうって事さ」

「……」


 瞬間、苦虫をかみつぶした様な顔になる男。


「アンジェ、回復魔法を」

「え? あっはい!」


 落下のショックでいつの間にかとけていたアンジェの回復魔法、私に言われて再びやり出した。

 体の周りに薄くはる回復魔法、するとアンジェの足元が溶け出した。

 足元は溶けたが、落下はしなかった。


 地下道の様な洞窟が溶けて、その奥(、、、)が剥き出しになる。

 脈打つピンク色の肉、何かの内臓だ。


「こ、これは!?」

「さっきの落下、二回の落下はアンジェのせいだったんだよ」


 賢者の剣を抜いて、まっすぐ突き出して男を刺す。


「アンジェの回復魔法で溶けた(、、、)地面。ここはおじさんのお腹の中でしょ」


 私の推測が正しい事を裏付けるかのように、男は「くっ!」と呻いて、さっきまでのがはっきりと演技だと分かるくらい、顔をゆがめたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろうだしご都合展開なのはしょうがないと思う。 ただなぜそうなったのかの理由付けがまったくされていないのと、話の流れに脈絡がなさすぎる。
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