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08.善人、不老不死の薬を作り出す

『うん、これは珍しい。久しぶりにSランクの人ですよ。来世すっごい事になりますよ』


「う……ん」


 ぼんやりとした頭を起こす、周りを見回す。

 どうやら少し、眠ってしまったようだ。


 ここはカーライルの屋敷から数十キロ離れた、プレックスの山。


 私の目の前に一つの卵があった。

 ピルバグの卵、それがたった一つ。

 それをさがしてここまで来たら、卵が一つぽつんとあった。


 他にあった痕跡はない、最初から一つとして生まれた。

 そんな感じの卵。


 通常、虫の卵は大量にあるものなんだが、それが一つしかないというのは、かなりの「特別」で、危険に繋がる可能性が高いと私は直感で思った。


 ピルバグ、少し前からアレクサンダー同盟領を悩ませてきた虫。

 退治してもしてもまた現われて、しまいには進化までしていた。


 適者生存。

 種族は環境や外敵に適応するために、世代を重ねる時に進化をする事がよくある。

 ピルバグもそうで、私という外敵に適応するために進化をした。


 このまま場当たり次第の退治をしてるとますます進化して手がつけられなくなる。

 抜本的な解決をするために、なんとかしようと思って、探し当てたのがこの卵だ。


「しかし……離れた場所にいても繋がってるなんてすごいね」


 私のつぶやきに、肌身離さず持っている賢者の石が光って応えた。

 最近、賢者の石に意志の様なものを感じるようになった。


 質問に対して知識を答えてくれるだけじゃない、こういう感想にも共感を示してくれる。

 なんとなく人間臭い、と思う事がよくある。


 そんな賢者の石が、ちょっとした警告を込めて教えてきた知識。


 ピルバグは全世界の同じ種族で繋がっている。

 ある場所で物理に殲滅されたら、違う場所で物理耐性が強い個体に進化する。

 屋敷の庭で物理無効に進化した女王とその下の虫がまさにそうだ。


 この卵も、多分進化する。


 その進化をここで断ち切る(、、、、、、、)ために私はやってきた。

 卵をしばらく見守っていると、その時がやってきた。

 卵が割れて、中から虫が孵ってきた。


 孵ったのはピルバグ……っぽい虫だ。

 外見が変わり変わってる――。


「あなた……だれ?」


 それ以前に、中身もだいぶ変わっているみたいだ。

 孵ったばかりのピルバグは女の子の声で私に聞いてきた。

 ちょっとハスキーな声で、感情の起伏に乏しい。


 その喋り方なのはそういう性格だからか、それとも私を警戒しているのか。

 分からないが、やる事は変わらない。


 私は懐の中から石を取り出した。


 キラーン! と、ピルバグの目が光った。


「これ、食べる?」

「……」


 私が取り出した石には興味津々、ものすごく惹かれる思いだが、それを差し出した私に警戒をしている。


「どうしたの? いらないの?」

「私たち、いっぱい殺した。それ、きっと毒」

「記憶も受け継いでるの?」

「……」


 沈黙、しかし肯定。

 なるほど、知性をもって進化した女王から更に記憶を受け継いだ訳だ。

 やっぱり、進化はここで止めなきゃダメだ。


 今なら、互いにwin-winな形で止められる。


「大丈夫、これは賢者の石っていうものなんだ。僕が今朝作った、毒なんかない」

「賢者の石……?」

「というか賢者の石の一種だね。魔術師が追い求める賢者の石の効果はいくつかあって、その中の一種類だよ。で、この賢者の効果は大きく分けて三つ」


 私は手を伸ばして、指を立てながら説明していく。


「不老、そして不死、それとお腹がすかなくなる」


 私の説明を聞き、ため息交じりにつぶやくピルバグ。


「まるで夢の様なもの……」

「うん、夢の様なものだね」

「それに……多分本物……」

「分かるの?」

「うん、すごいエネルギー」


 なるほど、ピルバグらしい判断基準だ。


 賢者の石、魔術師がそれに求めた効果は大きく分けて三つ。


 黄金の生成、あらゆる知識、そして不老不死。


 その中でも不老不死は特に存在しないものとして、あらゆる権力者が追求して、夢破れてきたものだ。


 私はそれを作った。

 SSSランクの魔力で、虫くらいなら不老不死に出来る賢者の石を作れた。

 進化は世代を重ねてしていくもの、不老不死になった瞬間進化が止まる。


「何を、企んでるの?」

「キミが不老不死になると僕も助かるんだ」

「……」

「本当だよ、嘘じゃない。さあ、これを受け入れて」


 まだ疑わしげで、及び腰になってるピルバグに更にすすめる。


 しばらくじっと私を見つめるピルバグ。

 心からの本音。

 それが伝わったのか、ピルバグはおずおずと私がが差し出した賢者の石にかぶりついた。


 高エネルギーの人造物が大好きなピルバグ、進化してもそれは変わっていない。

 ピルバグは、賢者の石をあっという前に平らげた。


 それを全部体内に取り込んだ次の瞬間、ピルバグの体の中からまばゆい光が放たれた。

 目の前がまぶしくなって、手で目を覆った。


『え? 不老不死になりたい? Sランクだし出来ますよ』


 光の中、何か声が聞こえた気がした。

 夢の中で聞こえた声と似ている――いや違う。


 生まれ変わる前の、査定をしたあの天使の声だ。

 間違いない、私は光の中それを確信する。


 天使の声だって理解して、その言葉の意味も理解した。

 目の前のピルバグが、前世Sランクの善行を積んだ人間だと理解した。


 同時に、賢者の石による不老不死化に成功した事も確信したのだった。

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