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06.善人、虫と希望を運ぶ

 ミラー領カイエラ村。


 瞬間移動魔法で直接、この村のほこらに飛んで来た。

 アスタロトを解放したこの村では、ほこらに何回かの大規模な増改築をしたと聞いている。

 その結果、ほこらのガワ(、、)は変哲のない物だが、中にいる私の石像はすごかった。


 高い台に乗せられて、背中に後光や翼をモチーフにして仰々しいオブジェがこれでもかってつけられている。


 まるで世界の支配者か、物語のラスボスかのような威厳と風貌。

 正直、オプションが多すぎて私の顔など霞んで見える程だ。


 一方のアスタロトは等身大(ありのまま)の姿だった。


 私とアスタロトのギャップが大きければ大きいほどアスタロトは喜んで加護を授けるのがもう知れ渡っている。

 村人からすればこれで正解(、、)ではある。


「こらこら、ここは危ないぞ。何処のうちの子供だ?」


 少し離れた木の陰から一人の男が現われた。

 ズボンの帯を締め直している所からして、木の陰で用を足してきたところか。


「ここの村の人? 見かけない顔だね」

「この前引っ越してきたばかりだからな」

「そうなんだ」

「それより危ないぞここ、モンスターに襲われる可能性があるから、子供はすぐに家に帰りなさい」

「それなら大丈夫、僕はそのモンスターを退治しに来たんだから」

「はいはい、気持ちだけ受け取るから大人に任せなさい――」


 聞き分けのないワンパクキッズにする様な、大人の対応をされた。


 私は持ってきた袋を地面においた。

 ごろん、とピルバグの死体が一匹袋から転がり出た。

 ここまで回ってきた村で退治してきたものだ。


「え? ピル……バグ?」


 男は言葉を失った。

 目を見開き、私と虫の死骸を交互に見比べる。


「なんでこれが……え? 死んでる?」

「僕が退治したんだ」

「………………いやいやいや」


 男は手のひらを立てて、顔の前で振った。


「大人をからかうのやめなさい。ピルバグは何をやっても倒せない。どこかで寿命になったのを見つけて拾ってきたんだろ?」

「本当に僕が倒したんだけどね」

「いい加減にしないと怒るぞ」


 台詞通り、男は本当に怒り出しそうになる。

 そこに別の男がやってきた。


「どうしたガイ、ちゃんとほこらをまもれって言っただろ。いつ虫どもが来るのかも分からないんだから」

「コールさん、いやこの子供がさ」

「子供? ってアレクサンダー様! いらっしゃってたんですか」

「え?」


 最初の男、ガイがまたポカーンとなった。

 後から来たコールという男が私に頭を下げる。


「な、なあコールさん。その子供は一体」

「こら! 失礼だぞガイ。このお方は副帝殿下、アレクサンダー・カーライル様だぞ」

「えええええ!? す、すいません!」


 ガイは慌てて私にひざまづいて、頭を地面にこすりつけた。


「顔をあげて、そういうことは気にしないでいいから。それよりもここ、まだピルバグ来てないみたいだね」

「ああいえ、何回かは来たんです」

「へえ? それにしては――」


 私はほこらと、その中にいる私とアスタロトの石像をちらっと見る。

 ほこらも石像も綺麗なもんだ。


「被害がないようだけど」

「村のじいさまばあさま達のアイデアで難を逃れたんですよ」

「アイデアって、どんな?」

「虫どもが来たとき、村総出でほこらの外側をびっしりと固める、肉の壁ですよ。

「……なるほど」


 私は苦笑いした。

 老人達の知恵は確かに効果的かもしれない。


 ピルバグは高エネルギーの創造物だけを食べる。

 今まで見てきた村の住民達は声を揃えてそう言うし、賢者の石の答え合わせもそう出ている。


 儚げな未亡人のローラが素手で掴んでもなんともないように、人間そのものには無害なのだ。

 その虫が通れないように、ほこらを人間の肉の壁で埋め尽くしさえすれば被害は出ない。


「よく考えたねそれ」

「それが……もうそろそろやばいんです」

「なんで? 実害はないんでしょ」

「実害はないんですけど、虫どもに体中を這いずり回られて、あまりの気持ち悪さから体調を崩す連中も……」

「そりゃそうだよね」


 ちょっと想像して……やめた。


 私だってそれはいやだ。

 体を張って、虫が諦めて立ち去るまで体中を這われるのなんて、ちょっと考えただけで寒気がする。


 あっ、本当に鳥肌が立った。


「数はそんなにないんだけど、いかんせん……」

「数は少ないの?」

「ええ、多くでも十匹、少ないときは二、三匹。一回も食わせてないのが良かったみたいで、数は増えてないんですよ」

「そっか、じゃあ来た時に倒しとけば大丈夫だね」

「いやあ、いくら副帝様でも倒す前提は無理がある――」

「大丈夫だよ」


 私はそう言って、地面に置いた袋からピルバグを一体出して、二人に見せた。

 前の村で殴り斬って(、、、、、)、真っ二つにしたピルバグだ。


 さっき「どこかで寿命になったのを拾ってきた」って疑われたから、はっきりと寿命じゃない死に方なのを取り出した。


「「……えっ」」


 きょとんとする二人、声が綺麗に揃った。


「こ、これって」

「ピルバグが斬られてる!?」

「この虫を倒すのって不可能じゃなかったのか?」

「そ、そのはずだが……」


 ガイとコール、二人はおそるおそる私を見る。


 そんな二人の前で、死んでも硬さが変わらないピルバグを殴り斬った。

 半分に切られた虫が更に半分――四分の一に斬られた。


 最初は不可解と恐れが大半だった二人の目だったが。

 次第に希望と、救いの女神を見るような目になっていった。

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